妊娠による疼痛閾値上昇のメカニズムを解明するために脊髄での下行性抑制系に焦点を当て研究を進めている。 平成24年度に実験を開始した。実験開始当初は妊娠モデルの作成がなかなか安定しなかったものの、旭川医科大学の動物実験支援施設の協力も得ることができ、9割以上の妊娠率を得ることができた。引き続きBennettの神経障害性疼痛モデル作成を確立させた。対象モデルの作成が安定したのちにvon frey testにて妊娠ラットで分娩直前に疼痛閾値が上昇することを明確にした。 この機序を解明するため、脊髄後角での神経細胞の興奮を示すc-fosに焦点を当てた。ウエスタンブロットを用いてc-fosの定量を行うと、非妊娠ラットでは神経障害性痛モデルにて、病側のc-fos増加を認めたが、妊娠ラットではその傾向が弱まった。つまり妊娠-分娩を通じて脊髄後角での神経興奮を抑制するメカニズムがあることが分かった。この神経興奮の抑制にはアストロサイトの関与が疑われる。そのため今後はアストロサイトのマーカーであるGFAPの動態について、ウエスタンブロット、免疫染色法を用いて明らかにしていく予定である。 また、細胞内での変化を観察するためにミトコンドリアにもターゲットを当て、活性酸素の発生などを確認し、さらなる機序に迫る予定である。 妊娠が神経障害性疼痛を抑える機序が明らかになれば、治療法に難渋している神経障害性疼痛の治療法の一助となると考えられる。
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