研究課題/領域番号 |
24791582
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
本田 博之 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (20535174)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ホールセル・パッチクランプ法 / 脊髄虚血 / 興奮性神経細胞死 / 麻酔薬 |
研究概要 |
1.研究成果 (1)脊髄前角ニューロンにおけるシナプス伝達の解析と麻酔薬の作用を調査した。幼若ラットより脊髄スライス標本を作製し、脊髄前角ニューロンよりホールセル・パッチクランプ記録を行った。膜電位を-70 mVと0 mVに固定することで、それぞれ自発性興奮性シナプス後電流と自発性抑制性シナプス後電流が観測された。テトロドトキシンを灌流投与すると自発性抑制性シナプス後電流の振幅と頻度が著明に抑制され、脊髄前角においては自発的な抑制性入力があることが明らかとなった。μ受容体作動薬であるDAMGOを灌流投与すると、約60%の脊髄前角ニューロンにG蛋白質を介する外向き電流を誘起した。さらに、DAMGOは興奮性ならびに抑制性シナプス後電流の頻度をそれぞれ73%と62%に減少させた。これは吸入麻酔薬に見られる作用(興奮性入力の抑制と抑制性入力の増強)とは異なる作用であった。 (2)虚血性神経細胞死の電気生理学的解析を行った。虚血模倣液灌流投与による自発性シナプス後電流の変化を解析した。灌流投与直後にその頻度が増加し、その後数分間にわたって頻度50~70%まで減少、細胞死を示唆する巨大な内向き電流が誘起されるタイミングにおいては500~700%にまで増加した。これらの変化は興奮性・抑制性シナプス後電流の両者に認められた。 2.研究結果の意義と重要性 脊髄前角ニューロンにおけるシナプス伝達の基礎データを収集できたため、麻酔薬の作用や虚血の影響を解析することができるようになった。麻酔管理や集中治療において頻用される麻薬は脊髄前角ニューロンの神経活動を抑制する作用があることが明らかとなった。虚血において脊髄前角ニューロンのシナプス伝達に著明な変化が起きている事が明らかとなり、これを麻酔薬がどのように修飾するか調べることで神経保護効果のメカニズムを解析できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.達成できた点 (1)神経活動の主要な要素であるシナプス伝達について解析することができた。鎮痛作用に代表される脊髄後角ニューロンへの麻酔薬の作用は、シナプス伝達を修飾することによって発揮される。現在までの研究で脊髄前角ニューロンにおけるシナプス伝達がどのように行われているかを解析し、麻酔薬の影響を調査する基礎データとして集積できた。また、脊髄前角ニューロンにおける麻薬の作用を解析できた。麻薬は麻酔管理に必須の鎮痛薬である。同様の解析手法を用いることで、他の麻酔薬(吸入麻酔薬、静脈麻酔薬)の作用を調べることができるようになった。 (2)虚血性神経細胞死におけるシナプス活動を解析できた。虚血負荷によって興奮性ならびに抑制性シナプス伝達の変化が起きている事が判明したが、これらは虚血性神経細胞死に影響する因子であると考えられる。前述の通り、麻酔薬はシナプス伝達を修飾することで作用を発揮する。虚血病態におけるシナプス伝達をどのように変化させるかを知ることで、神経保護効果の作用機序を明らかにすることができる。 2.達成を妨げた点 虚血現象を解析する際に必須の機器である酸素分圧計を貸与元に返却しなくてはならなくなり、新規に購入したため、吸入麻酔薬の濃度測定に必要なガスクロマトグラフィーを今年度中に購入することができなかった。別の濃度測定の方法を検討すると共に他研究室とガスクロマトグラフィーの貸与について交渉中である。
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今後の研究の推進方策 |
1.麻酔薬の種類や投与量による神経保護効果の解析 ガスクロマトグラフィーを用いて吸入麻酔薬の濃度を調整する。吸入麻酔薬や静脈麻酔薬を灌流投与し、これらが虚血模倣液によって誘起される内向き電流に与える影響を解析する。内向き電流が起きるまでの潜時を測定することで、神経保護効果の有無を知ることができる。すなわち、潜時が延長した場合は神経保護効果があると言える。 2.麻酔薬の神経保護効果のメカニズムの解析 麻酔薬と虚血模倣液を同時に灌流投与し、麻酔薬が虚血によるシナプス伝達の変化にどのような影響を及ぼしているのかを解析する。具体的には、自発性シナプス後電流の振幅や頻度の変化をどのように修飾するかを解析する。もうひとつは虚血性神経細胞死のメカニズムとして活性酸素に着目し、まず、活性酸素供与体であるtBOOHを灌流投与して誘起される電流やシナプス後電流に対する効果を調査する。また、虚血模倣液と同時に灌流することで虚血によるシナプス伝達の変化をどのように修飾するかを観察する。さらに麻酔薬が活性酸素によるシナプス伝達の変化をどのように修飾するかを調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.酸素分圧測定装置を購入したため、ガスクロマトグラフィーを購入できなかった。ガスクロマトグラフィーは灌流液中の吸入麻酔薬濃度を測定するうえで必須である。現在、他研究室と貸与もしくは購入について交渉中である。 2.薬品としてはホールセル・パッチクランプ法による実験に必要な基本的薬剤と共に、虚血模倣液作製に必要なスクロース、窒素ガスを購入する。さらに、麻酔薬として吸入麻酔薬やプロポフォールなどの静脈麻酔薬を購入する。虚血のメカニズムと神経保護の標的として活性酸素に注目している。活性酸素供与体であるtBOOHもしくは過酸化水素を購入する。また、フリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンを購入する。 3.虚血実験においては効率良く灌流液を低酸素の状態にしなくてはならない。また、吸入麻酔薬の灌流投与においても灌流液からの拡散が小さい方が良い。小容量の記録用チャンバの新規購入や窒素ガスによる実験系の封入を考慮する。
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