1.研究成果 (1)虚血性神経細胞死の電気生理学的解析を行った。虚血負荷によって自発性シナプス後電流は灌流投与直後にその頻度が増加し、その後数分間にわたって50~70%まで減少、細胞死を示唆する巨大な内向き電流が誘起されるタイミングにおいては500~700%にまで増加した。すなわち、虚血によりシナプス伝達は三相性の反応を示した。虚血性神経細胞死における重要なメディエータとして活性酸素種(Reactive oxygen species: ROS)が挙げられる。ROSの一種である過酸化水素を灌流投与すると、興奮性シナプス後電流の頻度は一過性に増加し、その後減少に転じて過酸化水素灌流投与終了後10分の時点でも頻度減少は続いた。 (2)麻酔薬による神経保護作用の検討した。μ受容体活性化ならびに遮断が細胞死を示唆する急速な内向き電流が生じるまでの潜時を修飾するかどうかを解析した。μ受容体作動薬DAMGOとμ受容体拮抗薬ナロキソンを使用したが、いずれも潜時に変化は無かった。つまり、μ受容体活性化ならびに遮断による神経保護効果は無いと考えられた。 2.研究結果の意義と重要性 本研究により、脊髄前角ニューロンにおける虚血性神経細胞死の電気生理学的メカニズムが明らかになった。脊髄前角ニューロンにおいて虚血は三相性のシナプス伝達の変化を起こす。虚血性神経障害のメディエータである過酸化水素の灌流投与でも同様の変化を認めたことから、この反応にはROSが重要な役割を果たしている可能性がある。さらに麻酔薬として必須と考えられるμ受容体作動薬の脊髄前角ニューロンにおける作用を詳細に明らかにした。しかし神経保護効果については有用性を認めることができなかった。
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