周術期における痛みの管理は麻酔科医にとって重要な仕事の一つであることは言うまでもない。実際のペインクリニックの現場では、そうしたプロセスを軽視することで術後慢性痛に移行し、治療に難渋している患者が多い。そこで我々はfMRIを用いて、吸入麻酔下において痛み刺激による脳活動の変化が誘導されるかについて平成25年度から検討している。今年度は神経障害性痛モデルマウスを用いて検討した。 C57BL/6J系雄性マウスの右側後肢の坐骨神経を8-0 silkで部分結紮することで神経障害性痛モデルマウスを作製した。ただし、このモデルには自発痛が生じないため、部分結紮をしてから7日目にマウスの右側後肢足底部にPeltier elementを装着して43-46℃の熱刺激を与えることで痛みを誘発した。そして、fMRI下で熱刺激を与えることによって誘発される脳活動の変化(脳内活性の変化)を観察した(各群5匹ずつ使用)。fMRIの測定は0.5-1%イソフルラン麻酔下で行った。いずれもtwo-way ANOVAと、その後のBonferroni testで統計処理を行った。 麻酔下において足底部に熱刺激を与えることにより、視床内側領域や視床外側領域、さらにはそれぞれの上位に位置する前帯状回領域や第一次体性感覚野領域、すなわちpain matrix領域における脳内活性が対照群と比較し、有意に上昇した(p<0.05)。またこの脳内活性は、抗てんかん薬であるガバペンチンにより抑制された。 以上より、たとえ吸入麻酔下であっても、痛み刺激によりpain matrix領域への痛覚伝達の増強が引き起こされることが明らかとなった。すなわち、麻酔下であっても、痛みは脳内に記憶されうる可能性がある。
|