研究実績の概要 |
エピジェネティクスは、DNAの塩基配列によらない遺伝子発現の多様性を生み出す機構であり、そのひとつにヒストンのアセチル化がある。本研究では、敗血症におけるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の役割、HDAC阻害剤の敗血症に対する有用性について検討した。 雄性BALB/cマウスに盲腸結紮穿孔(CLP)を施し、敗血症マウスを作成,、CG200745投与群はCLP施行の3時間前に10 mg/kgを単回腹腔内投与した。敗血症マウスにおける肺組織中HDACレベルの変化、肺・脾臓の組織学的変化、肺組織および血清中炎症性サイトカイン・ケモカインの発現、アポトーシス関連分子、アポトーシス阻害因子の発現について検討し、CG200745投与群およびバルプロ酸投与群と比較した。 HDAC1, 2, 3は敗血症マウスで減少し、アセチル化ヒストンH3, H4は増加した。敗血症マウスで肺および脾臓組織は炎症病理像を呈しCG200745投与群とバルプロ酸投与群でも同等であった。敗血症マウスのTNFαとIL-1β、MCP-1のmRNAが著明に上昇し、投与・非投与群間で差がなく、血清中でも同等であった。一方、肺・脾臓組織のTUNEL陽性細胞は敗血症マウスで著明に増加し、投与群で有意に減少した。アポトーシス関連分子であるcleaved caspase 3、cleaved PARPが投与群で有意に減少し、アポトーシス阻害因子であるBcl-2、Bcl-xLは投与群で減少した。 HDAC阻害剤であるCG200745の投与は、敗血症におけるアポトーシスを抑制したが、炎症性サイトカインの抑制や炎症病理像の改善は認めなかった。同じくHDAC阻害剤のバルプロ酸も抗アポトーシス効果を示したが、炎症は抑制しなかった。HDAC阻害剤によるヒストンアセチル化は、敗血症における細胞のアポトーシスを制御していることが示唆された。
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