研究課題/領域番号 |
24791590
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
小嶋 亜希子 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (50447877)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | Ca2+輸送タンパク質 / Ca2+イメージング法 / パッチクランプ法 / 虚血再灌流傷害 / 吸入麻酔薬 |
研究概要 |
虚血に陥った心筋に血流が再開されると、不整脈、収縮機能の回復遅延、さらには心筋細胞死等の種々の心筋傷害が発生する(虚血再灌流傷害)。その原因として再灌流に伴って発生する細胞内Ca2+過負荷が挙げられており、オキシゲンパラドックスとCa2+パラドックスはその主要な発生機転と考えられている。 再灌流時に発生するオキシゲンパラドックスをシミュレートする目的で、正常マウス心から単離した心室筋細胞にH2O2を作用させ、細胞内Ca2+イメージング法およびパッチクランプ法を適用し、細胞内Ca2+濃度や膜電位・膜電流の変化を指標に、細胞内Ca2+動態の異常に関わるイオン機序を同定した。さらにセボフルランの同時投与(ポストコンディショニングに相当)を行い、この細胞内Ca2+動態の異常に対する抑制メカニズムの検討を行った。 H2O2(100μM)を心筋細胞に15分間作用させると、約55%の細胞が細胞内Ca2+濃度の上昇とともに異常収縮を繰り返し、ついには細胞拘縮(細胞死)を起こすが、この細胞傷害の発生機転として、① 筋小胞体リアノジン受容体からのCa2+リーク ② Na+/Ca2+交換体によるCa2+排出とそれに伴う細胞膜脱分極 ③ 異常自動能の発生とL型Ca2+チャネルを通るCa2+流入の増大 ④ 細胞内Ca2+過負荷による細胞拘縮、というCa2+ホメオスターシスの破綻が基盤にあることを解明した。セボフルランの同時投与で心筋細胞が細胞内Ca2+過負荷から保護されるメカニズムとしては、セボフルランがそれぞれのCa2+輸送タンパク質に作用し、破綻したCa2+ホメオスターシスを正常化することにある点を明らかにし、論文報告した(Anesthesiology 2013, in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでにマウス単離心室筋細胞を用いて、Ca2+パラドックスとオキシゲンパラドックスという細胞傷害モデルにおいてセボフルランが強力な保護作用を発揮すること、またその保護メカニズムにはCa2+ホメオスターシスに関わるTRPC(transient receptor potential canonical)チャネルや筋小胞体リアノジン受容体(RyR2)の抑制が大きく関与していることを明らかにしてきた。セボフルランの心筋保護メカニズムを応用して、心臓虚血再灌流傷害におけるCa2+輸送タンパク質の阻害剤の効果を検討した。 摘出マウス心臓をランゲンドルフ式灌流装置下で灌流し、30分間の全虚血(灌流停止)と1時間の再灌流(灌流再開)を施行し、左心室内バルーンカテーテルを用いて、再灌流1時間後の心機能(左室拡張末期圧; LVEDP、左室developed pressure; LVDP)を虚血前と比較した。セボフルランおよび種々のCa2+輸送タンパク質の阻害剤を投与し、対照群と比較して、心機能の改善が認められるか検討した。その結果、セボフルランだけでなくTRPCチャネルの阻害薬やRyR2阻害薬は、再灌流後のLVEDP上昇、LVDP回復率を改善させた。 このように、心筋虚血再灌流傷害の発生には、これらのCa2+輸送タンパク質(TRPCチャネル、RyR2)の関与があることが明らかとなった。また、心室筋細胞レベルで得られた結果が摘出心臓レベルでも反映された。 以上で、研究計画の正常心臓(心室筋細胞、摘出心臓)における検討が、予定通り終了した。
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今後の研究の推進方策 |
肥大心・不全心、糖尿病心モデルを用いて、オキシゲンパラドックス、Ca2+パラドックスの発生機転、およびそれに対するセボフルランの抑制効果を検討し、正常心での実験結果と比較する。 成体マウスを実体顕微鏡下にTAC手術を施行し大動脈を狭窄させ、心肥大・心不全モデルを作成する。また、成体マウスに膵臓β細胞の機能を選択的に阻害するストレプトゾシン(STZ)を腹腔内に投与して糖尿病モデルを作成する。これらの病態マウスから得られた心室筋細胞でオキシゲンパラドックス、Ca2+パラドックスによる細胞傷害が増強しているか否か検討を行い、増強していた場合にはそれに関わる細胞内機構の解明を行う(Ca2+イメージング法、パッチクランプ法、免疫細胞化学法)。また、これらの細胞傷害に対する臨床使用濃度のセボフルランの効果を調べ、正常心室筋細胞と比較・検討する。 心室筋細胞レベルでの検討の後、病態マウスの摘出心臓における虚血再灌流傷害に対するCa2+輸送タンパク質(TRPCチャネル、RyR2など)の関与を正常心臓と比較・検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
病態モデルマウスの作成につき、実験動物費は平成24年度より2倍程度増加することを見越している。また、それに伴うマウス手術用器具や備品、試薬の購入も予定している。 設備備品として、他の吸入麻酔薬の効果を検討するために、イソフルラン、デスフルランの気化器を実験用に購入する予定である。 摘出心臓のランゲンドルフ実験に伴い、心筋傷害の指標としてクレアチンキナーゼ活性を測定する必要があり、その定量キットも消耗品として購入予定である。 また、本研究課題によって得られた成果を広く社会に発信するために、日本麻酔科学会、日本臨床麻酔学会、日本生理学会などで積極的に成果を発表する予定であるが、このために国内旅費を使用する計画である。米国麻酔科学会やヨーロッパ麻酔科学会での発表のために、外国旅費を使用する予定である。研究成果を広く世界に発信するために、査読のある読者の多い国際学術雑誌に投稿・発表することが必要であり、研究成果投稿料はそのために使用する予定である。
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