特発性肺線維症(IPF)は、慢性進行性、原因不明の肺疾患であり、一部の症例で肺高血圧症を合併する。ステロイド療法が唯一の治療法であるが、近年フォスフォジエステラーゼ(PDE)5阻害薬の有効性が検討され始めた。一方、基礎研究では、病的肺におけるフォスフォジエステラーゼの発現が変化している可能性が示唆された。 そこで申請者は、PDEを特発性肺線維症の病態を改善する標的の一つと考え、正常肺との発現の差を明らかにしようと考えた。 肺癌患者からの摘出標本の中の正常組織をコントロール群、IPF患者から得られた肺組織を対照群とする。手術に伴い得られた、健常肺とIPF肺の組織からタンパク質を抽出し、PDE5のタンパク発現をWestern blot法で定量したところ、IPF患者においてPDE5の発現増強を認めた。 次にPDE5の増強が認められる部位を明らかにするために、摘出標本のパラフィン切片を用いて免疫染色を行ったところ、当初予想された血管平滑筋ではなく、線維芽細胞の増勢した部位に発現の増強を認めた。 近年、PDE5阻害薬が肺線維症を含む間質性肺炎に有効であるという報告が散見されており、PDE5阻害薬の血管平滑筋拡張作用が潜在的な肺高血圧を軽快することがそのメカニズムであろうと予想した。しかし、今回得られた結果は当初の予想である血管平滑筋におけるPDE5の増強ではなく、繊維組織における発現増強であった。このことから、PDE5阻害薬は線維化そのものに対して影響を与える可能性が示唆された。
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