研究概要 |
周術期の心筋虚血は生命予後に直結するため,心筋虚血及び再灌流障害をいかに制御するかは,周術期管理を行う麻酔科医の命題の一つである。本研究では,心筋保護作用が期待される亜硝酸塩を用いて,心筋保護作用の効果について,ラット心筋虚血モデルを用いて研究を行った。平成24年度は,心筋保護作用を有する亜硝酸塩の臨床用量について調査し,また心筋ミトコンドリアへ及ぼす影響について調査した。 Wistar ratを用い,麻酔下に冠動脈左前下行枝を結紮し,30分間継続した。結紮直前に異なる用量の亜硝酸塩(0, 48nM, 480nM, 4800nM)を投与し,虚血中の血行動態へ及ぼす影響を調査した。その結果,亜硝酸塩は,30分間の虚血による虚血領域(Area at risk)に対する影響はなかったが,480nMにおいて,虚血中の心室細動の発生率,及び不整脈の重症化が抑制された。480nMの亜硝酸塩は,心筋虚血誘発性不整脈を抑制することで心保護作用を有する可能性が示唆された。臨床用量として適正と考えられる同用量の亜硝酸塩を用いて,虚血再灌流傷害に対するポストコンディショニング作用を現在調査中である。 亜硝酸塩の心保護作用には心筋ミトコンドリアが深く関与していると考えられている。亜硝酸塩が心筋ミトコンドリアへ直接及ぼす影響を調査する目的で,単離ミトコンドリアを用いて研究を行った。大気下及び,低酸素環境下において,亜硝酸塩がミトコンドリア機能へ及ぼす影響を評価した。いずれの酸素環境においても,480nMの亜硝酸塩は心筋ミトコンドリアの酸化的リン酸化活性に影響を及ぼさなかったことから,心筋保護作用には,心筋ミトコンドリアは間接的に関与している可能性が示唆された。活性酸素種,一酸化窒素や一酸化窒素合成阻害薬の関与について調査を行っている。
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