エピジェネティクスは塩基配列によらない遺伝子の発現に影響を与える現象として、癌化との関わりだけでなく、生活習慣病など様々な疾患にも深く関与することが示唆されているが、不妊症との関連については研究が進んでいない。我々は、エピジェネィック制御の1つ、メチル化現象と精子形成障害についての関連を探索し、さらに不妊治療の臨床成績へ与える影響についても検討を行った。 プロモーター領域にTDMR(組織特異的メチル化可変領域)をもつGTF2A1L遺伝子に注目した。この遺伝子は、マウスにおける実験で、精子形成の中でも特に最終段階であるspermiogenesisに重要であるとされている。プロモーター領域には22個のCpGを含むCpG islandが存在し、TDMR領域として遺伝子発現の制御に関与している。 86症例の非閉塞性無精子症の中で17症例がhypospermatogenesisの組織型であり、この組織型を中心に研究を進めた。この中で、5例がTDMRの高メチル化群、12例が低メチル化群であった。TDMRの高メチル化は、GTF2A1L遺伝子発現の低下と関連していた。 さらに、臨床成績を含めて検討を行った。高メチル化群・低メチル化群の両群とも、精子回収率、受精率、妊娠率、出生率に関して比較的好成績であり、GTF2A1L遺伝子発現の異常は妊娠率へは影響を与えていなかった。TESE-ICSI(精巣内精子回収術-卵細胞質内精子注入法)による生殖補助医療技術によって、TDMRメチル化異常による男性不妊症が克服されている可能性があると言える。
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