研究概要 |
ARを介さない自己分泌型IL-6の前立腺癌細胞への影響を解析するため、IL-6を標的としたsiRNA発現ベクターを作製した。このベクターをIL-6が高発現しているヒト前立腺癌細胞株PC3細胞に導入し、IL-6発現が阻害されたPC3細胞を作製する。このIL-6発現阻害PC3細胞と母細胞の形質変化を、細胞増殖能やIL-6下流のシグナル伝達系(JAK-STAT,Ras-MAPK,PI3K-Akt)、apoptosis関連蛋白の発現変化を中心に比較し、またDocetaxelに対する感受性の変化も検討した。まずIL-6を高発現しているホルモン非依存性ヒト前立腺癌細胞株PC3にIL-6を標的としたsiRNA発現ベクターを導入し、IL-6発現が阻害されたPC3細胞株(PC3/sh-IL6)を樹立した。IL-6発現阻害は、ELISA法を用いて細胞培養上清中のIL-6の濃度を測定することで確認したが、母細胞(PC3/P)と比較してPC3/sh-IL6のIL-6分泌量は約30%に抑制されていた。また、両株ともPCRおよびWestern blot法にてARが発現していないことを確認した。in vitroおよびin vivoにおいて、PC3/sh-IL6の細胞増殖能はPC3/Coと比較して有意に低下しており、さらにその下流シグナルおよびアポトーシス関連蛋白の変化をWestern blot法にて比較検討した結果、PC3/Coに比しPC3/sh-IL6ではBcl-2、Bcl-xLの発現低下およびAKT、p44/42MAPK、STAT3のリン酸化抑制が認められた。さらに両クローンにおけるドセタキセルに対する感受性の変化をin vitroで検討したところ、PC3/sh-IL6ではPC3/Coに比しドセタキセルに対する感受性が亢進していたが、その差はIL-6分泌量から想定されるほど顕著なものではなかった
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今後の研究の推進方策 |
Docetaxelの感受性に影響を及ぼしているtarget分子を検索し、その抑制によりDocetaxelに対する感受性が回復されるかを検討し、耐性克服に有用である薬剤の候補をin vitroおよびin vivoにて検索する。in vivoにおいては、PC3/PおよびPC3/sh-IL6細胞をヌードマウス(BALB/c)皮下に移植し2群のxenograftを作成し、両株のDocetaxelに対する感受性を評価する。皮下に移植した腫瘍体積がある一定のサイズに到達した時点で、Docetaxelによる治療を開始する。投与方法としては尾静脈からの静脈内投与(Docetaxel 5mg/kg/day,4日ごと投与)を行い腫瘍体積の変化を観察し、その感受性を比較する。また、それぞれの群の腫瘍を摘出し、各種分子マーカーの変化を免疫組織化学染色にて評価する。さらに、Docetaxelに対する感受性を亢進させる薬剤の併用効果についても検討を加える。 また、一般的に抗癌化学療法に対する耐性獲得に関与していることが示されているABCトランスポーターとIL-6発現量との関連性についても検討を加える。In vitroにおいてPC3/PおよびPC3/sh-IL6の両株でのABCトランスポーター(MDR1, MRP1, MRP2, BCRP)の発現量の差異をWestern blot法にて検討する。
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