研究課題/領域番号 |
24791651
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
和田 耕一郎 岡山大学, 大学病院, 助教 (20423337)
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キーワード | 尿路感染症 / 大腸菌 / 薬剤耐性 / ESBL産生菌 / 抗菌薬 / 治療法 / 薬物動態/薬力学 / マウス感染モデル |
研究概要 |
本研究の目的は尿路感染症由来の薬剤耐性大腸菌に関して臨床的および基礎的研究を遂行することである。平成24年度に岡山大学倫理委員会で承認された以下の臨床研究を平成25年度は本格的に運用し、多くの登録症例を得た。 主要な研究成果として、①キノロン耐性大腸菌やESBL産生大腸菌選択的培地の作製に成功し、前立腺生検の合併症である急性細菌性前立腺炎の発症を0.6%まで低下させた。②急性単純性膀胱炎患者を無作為にセフジトレン ピボキシル3日間または7日間投与に割付し、両群間の治癒率を解析中である。③カルバペネム系抗菌薬が腎盂腎炎においても時間依存性に効果を発揮することを示した。④フルオロキノロン系抗菌薬の精巣、精巣上体への移行性が高いこと示した。これらの臨床研究は、大腸菌が原因菌として最も多い尿路性器感染症患者に対して最善の治療を行うため、さらに基礎的研究に用いる臨床分離株を得るために重要である。 実験研究では、平成24年度に着手したMLST(multilocus sequence typing)解析を継続しており、平成25年度にはESBL産生大腸菌の耐性遺伝子タイピングも実施可能となり、岡山大学泌尿器科において尿または直腸から分離されたESBL産生大腸菌の解析を行った。その結果、36株中22株がST131で、28株がCTX-M-14耐性遺伝子を保有していた。一方で、in vivo実験では、平成25年度にマウスの腎盂腎炎や慢性尿路感染症(膀胱内異物)モデルの構築に着手したが、尿浸透圧や個体の免疫機能に関する調整が難しく、現在構築途上である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は、前述した4件の臨床研究を本格的に運用した。① 便中のフルオロキノロン耐性大腸菌を検出する簡易培地に関する研究‐前立腺生検に適用し急性前立腺炎の発生率低下に寄与するか‐(岡山大学倫理委員会受付番号:1290)② 成人急性単純性膀胱炎におけるセフジトレン ピボキシルの臨床効果と投与日数の検討(岡山大学倫理委員会受付番号:1383)③ ビアペネムの泌尿器科領域における薬物動態/薬力学(Pharmacokinetics / Pharmacodynamics;PK/PD)に関する研究(高齢者・腎機能低下例も含めた検討)(岡山大学倫理委員会受付番号:1287)④ 抗菌薬の精巣上体,精巣組織に対する移行性の検討 (岡山大学倫理委員会受付番号:1409) 登録症例数/目標症例数は①200/200例となり研究延長、②94/120例で延長、③9/21例、④25/25例と、目標をほぼ達成した。さらに、大腸菌が原因菌として最も多い尿性敗血症モデルを対象としたパズフロキサシンの有効性に関する臨床研究を岡山大学臨床研究審査委員会に申請中である。これらの研究課題は臨床分離株の収集、抗菌薬の投与法に関する臨床データの収集、PK/PDに即した抗菌薬投与法の臨床的解析、大腸菌が原因菌として最も多い精巣上体炎に頻用される抗菌薬の体内動態の解析を目的としており、本研究課題に即した臨床研究といえる。 実験研究では、in vivo実験において、IVIS Luminaを用いるリアルタイムイメージング法は緑膿菌感染症モデルにおいて確立できたが、大腸菌感染症モデルへの適用には時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降岡山大学倫理委員会で承認された臨床研究は平成26年度も継続する。目標症例数に到達したものも重要な研究に関しては期間延長の申請を行っており、研究は継続する。臨床背景や臨床分離株の基礎的検討(尿路感染症由来大腸菌株の薬剤感受性、バイオフィルム形成能など)によって得られた知見をまとめて学会発表や論文化を行う。 分子疫学的検討は、ESBL産生株やキノロン耐性株を用いて、MLST解析やESBL産生株の耐性遺伝子タイピングを継続する。特徴的な菌株(薬剤耐性大腸菌)については、in vitroバイオフィルム実験系(フローセルシステム)において、バイオフィルム形成過程ならびに形成能を検討する。in vivo実験は、マウスの腎盂腎炎や慢性尿路感染症(膀胱内異物)モデルを構築した後、薬効評価を実施する。 上記の臨床研究は基礎研究によって得られた知見に裏付けられるような目線で推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度研究計画調書(平成23年度11月提出)において、平成24年度の設備備品費として計上していたライトサイクラーナノ(ロシュ・ダイアグノスティックス)は1,460千円(定価)であり、平成24年度の助成金額(交付予定額)1,600千円のうちの90%を超える価格であった。従って、平成24年4月の交付申請書の提出の際に研究計画の見直しを行い、設備備品費(ライトサイクラーナノ)は計上しなかった。この設備備品費は平成24~26年度に消耗品費や機器使用料等に使用することとし、平成25~26年度に繰越すことにした。 平成26年度の消耗品費として、細菌培養培地類、プラスチック・ガラス器具類、分子生物学的実験に必要な酵素・キット類、一般試薬類、マウスなどを購入する。また、研究費は研究成果発表のための学会や研究会への出張旅費に使用する。その他、学内共同実験室の機器使用料金、動物資源部門利用料金の支払いなどにあてる。
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