研究実績の概要 |
前向きコホート研究は当院における生体腎移植症例ドナー・レシピエント各39例を対象とした。高血圧や正常高値アルブミン尿を呈する提供腎腎生検では近位尿細管へのp16やSA-β-GALの染色を認めた。潜在的高血圧性腎硬化症を呈する患者の腎組織では、腎機能低下前から尿細管の老化が始まっていることが実証された。『腎臓の老化』を検出するバイオマーカーとしては、血清可溶性αKlotho、血清FGF23、尿中tissue inhibitor of metalloproteinases-2 (TIMP-2)、尿中アンギオテンシノーゲン各々あるいはlogistic modelによって非侵襲的に検出できる可能性が示唆された。この結果、高血圧や加齢などのマージナル因子をこれらのバイオマーカーを用いて一元的にリスクを表出することが可能となり、マージナルドナーからの安全な腎提供が可能かどうかを推定しうると考えられた。今後大規模研究による検証が必要である。 また、基礎研究では腎移植の際に起こる虚血再灌流障害におけるCyclin Dependent Kinase (CDK)であるp21の役割を解明するために動物実験を行い、p21はアポトーシスを抑制させることで臓器保護効果を持つことを明らかにした(Nishioka S, Sofue T, et al. Kidney Int 2014)。 過去起点コホート研究では移植腎機能が低値であると移植腎へのIgA沈着症が起こりやすいことを示した。このことより、IgA腎症の腎移植後再発に提供腎の老化を介して、移植腎側の因子(おもにIgAのメサンギウム領域からのクリアランス)が関連している可能性が示唆された(Sofue T, et al. Transplant Proc. 2015)。IgA腎症は再発腎炎を通じた原腎疾患の病態解明へのフィードバックが期待されている分野である。今後バイオマーカー探索研究によるIgA腎症発症の機序の解明が試まれている(UMIN000015773)。
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