研究課題/領域番号 |
24791658
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
内木 拓 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (50551272)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 去勢抵抗性前立腺癌 / 遺伝子治療 / 酸化ストレス |
研究概要 |
去勢抵抗性前立腺癌モデルの樹立から、新たな治療標的遺伝子の同定・解析を目指すため、以下の研究を行った。 ①モデル動物の樹立:これまでに樹立した、ホルモン依存性前立腺癌高発現トランスジェニックラットを、去勢したヌードマウス皮下に8代、2年間にわたって継代を繰り返し、去勢抵抗性前立腺癌モデルを樹立した。このモデル動物は、病理学的および骨転移が高頻度に認めるなど、ヒトに酷似するものであった。 ②原因遺伝子の同定:去勢抵抗性を獲得した前後でcDNAマイクロアレイを行い、発現差がみられた遺伝子を探索した。その結果、細胞内の酸化ストレス処理に関わる遺伝子Glutathione peroxidase 2 (GPX2)を同定することができた。 ③GPX2の機能解析:(i)細胞株PCai1、PC3を用いて、GPX2の発現をsiRNAで特異的に抑制し、細胞増殖に与える影響をWST-1アッセイで、ROSの定量化をDCFHアッセイで行った。さらに、GPX2の発現上昇が、細胞増殖に影響を与えているメカニズムを、flowcytometry、western blotで検討した。その結果、GPX2 発現を抑制すると、細胞増殖が著明に抑制され、細胞内ROS産生が有意に増加した。その増殖抑制効果はcyclinB1依存性のcell cycle arrestであった。 (ii)8週齢の去勢術後ヌードマウスおよび無処置マウスに、GPX2 siRNAおよびコントロールをトランスフェクションしたPCai1を皮下移植し、腫瘍体積の変化を計測した。その結果、GPX2 siRNA導入細胞株は、去勢群での造腫瘍性が有意に抑制され、GPX2が去勢環境下での腫瘍増殖に促進的に関わっていた。今後ヒト検体を用いて解析を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回の研究にて、これまでなかったヒトの臨床経過、病理学的所見を忠実に再現した去勢抵抗性前立腺癌動物モデルの樹立に成功した。さらにその機能解析にて、酸化ストレス応答遺伝子GPX2が去勢抵抗性前立腺癌において発現上昇を認めていることを見出した。そして、GPX2は細胞内の酸化ストレスを調節し、去勢環境下で癌細胞が安定増殖するのために必要な遺伝子であることを解明した。今後この遺伝子を標的とした遺伝子治療を行うための、基礎的研究をヒト検体での解析を加えて、行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、遺伝子GPX2は去勢抵抗性前立腺癌の分子標的治療の標的遺伝子となりうることを証明できたことから、今後より安全にどのような症例に治療を行うと効果的かを検証する。具体的には、ヒト前立腺全摘検体を用いて、GPX2のタンパク発現と予後を免疫組織学的に検討する。さらに、動物モデルの解析で得られた発現変化のあるmicroRNAに注目し、それらが、去勢抵抗性前立腺癌患者、化学療法抵抗性の患者の前立腺ならびに血液、尿検体において、発現変化があるかを、定量的RT-PCRを用いて確認する。薬剤耐性獲得とともに、それらのmicroRNAがどのように変動するかを経時的に検証し、前立腺癌における酸化ストレス調節機構の解明を目指す。さらに、安全な分子標的治療を行うため、GPX2の発現低下が生体内に及ぼす影響を動物実験で検証する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
◆消耗品費:実験動物はマウスが中心でありマウス購入費が必要となる。試薬類は遺伝子発現を検索するための試薬(DNA抽出試薬費、PCR試薬費、プライマー購入費など)、タンパク発現解析費(免疫染色試薬、抗体購入費、タンパク抽出試薬費など)が必要である。 ◆国内旅費:学会発表については、日本癌学会、日本泌尿器科学会総会、日本泌尿器科学会中部総会等の国内学会に参加し、その成果を発表する予定である。 ◆海外旅費:American Urological Association annual meeting等の国際学会に参加して、成果を発表する予定である。 ◆謝金等:一連の研究に際して、実験助手を雇用するため、一定の謝金が必要である。 ◆その他:抗体作製に関しては一部委託研究を行うので、委託費が必要になる。成果を論文として投稿するために英文校正費、投稿掲載費が必要である。また、マウス飼育費が必要である。
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