研究課題/領域番号 |
24791662
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
西尾 英紀 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 臨床研究医 (10621063)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 精子幹細胞 / ヒストン修飾 / 脱メチル化 / エピジェネティクス |
研究概要 |
停留精巣では精子幹細胞の分化障害が報告されている。私たちは、その分化障害時期を特定し、マイクロアレイ解析にて発現変化する遺伝子を検索した。その中で、Jarid1a遺伝子に着目した。Jarid1aは、ヒストン脱メチル化酵素であり、塩基配列によらない、すなわちエピジェネティックな遺伝子発現の調節を行うことが報告されている。幹細胞は多分化能と未分化性維持の相反する性質を持つが、この性質はエピジェネティックな遺伝子発現調節により説明することができるのではと考え、精子幹細胞におけるJarid1aの挙動に着目した。本研究では、Jarid1aの機能解析を目的とし、これにより精細胞分化機序の解明、および男子不妊症の治療法への応用が期待できると考えた。 まず、正常・停留精巣組織におけるJarid1aの発現差を経時的に検討した。mRNAレベルについて定量PCRで、タンパクレベルについてWestern Blotを用いて確認したところ、生後9日目の停留精巣においてJarid1aは有意に発現亢進していることが確認された。次に、正常・停留精巣組織におけるJarid1aの局在について免疫染色を行った。Jarid1aはgonocytesからspermatogonia、spermatocytesにかけて発現していることが確認された。Jarid1aはH3K4の脱メチル化酵素であるため、Jarid1a発現差に伴うヒストン修飾状態について、Western Blotを用いて検討した。Western Blotでは、停留精巣においてH3K4me2/me3の発現低下を認めた。 現在、遺伝子導入を用いたJarid1aの機能解析のため、Jarid1aを強発現させることにより、精子幹細胞分化に関わる遺伝子の発現変化を定量PCR法にて確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずマイクロアレイ解析の結果をもとにして着目したJarid1aの正常・停留精巣組織における発現差について経時的に定量PCRで、Western Blotを用いて確認した。その結果、マイクロアレイの結果と同様に生後9日目の停留精巣においてJarid1aは有意に発現亢進していることを確認することができた。次に、正常・停留精巣組織におけるJarid1aの局在について免疫染色を行ったところ、Jarid1aは精原細胞に発現し、その他の精巣を構成するセルトリ細胞やライディッヒ細胞には発現していないことを確認することができた。また精原細胞の特に核内に局在していることを確認することができた。これらよりJarid1aは核内のヒストン蛋白であるH3K4の脱メチル化酵素であることと矛盾しないことが確認できた。 Jarid1a発現差に伴うヒストン修飾状態について、Western Blotを用いて検討したところ、停留精巣においてもH3K4me2/me3の発現が低下していることが判明した。つまり、停留精巣においてJarid1aが高発現していることにより、H3K4における脱メチル化を介して精子幹細胞分化を障害している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
Jarid1aの機能解析のため遺伝子導入実験を行う。具体的には、GC-1細胞においてJarid1aを強発現させ、精子幹細胞分化に関わる遺伝子の発現変化を定量PCRにて確認する。またクロマチン免疫沈降法を用いたヒストン修飾領域の同定を行う。ゲノム上のヒストン修飾状態を解析するためには、クロマチン免疫沈降法(chromatin immunopreci itation, ChIP)が用いられる。ChIP法は、転写調節因子やその他のタンパク質が直接相互作用するDNAの特定部位を分離し、目的とする遺伝子特異的プライマーでPCR反応を行うことで、ヒストン修飾状態を定量化することが可能である。またChIP法で得られたDNAをプロモーターアレイにハイブリダイズすることで、ゲノム上にヒストン修飾をマッピングすることが可能である。このことにより、停留精巣におけるJarid1a応答遺伝子の同定を行う。 あるいは、精子幹細胞の培養細胞系の確立を行うことで、培養細胞への遺伝子導入を用いたJarid1aの機能解析を行う。初代培養にてJarid1aを強発現させ、mRNAの発現について定量PCR, タンパクの発現についてWestern blottingを用いて検討する。またH3K4のメチル化の変化についても検討する。これらはGC-1細胞を用いるより、より正確なJarid1aの機能解析を行うことができると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子導入実験にかかる費用を必要とする。またJaridlaの機能解析にGC-1細胞を購入し、更に正確な機能解析を行いたい。これらの実験を補助する助手に対する人件費は今年度は生じなかったが、次年度は研究の発展のための必要であると考える。得られた結果の発表のために英文校正料、学会旅費、学会参加費に使用する予定である。
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