研究課題
停留精巣では精子幹細胞への分化障害が報告されている。私たちは、その分化障害時期を特定し、マイクロアレイ解析にて発現変化する遺伝子を検索した。その中で、Kdm5a(lysine (K)-specific demethylase 5A)遺伝子に着目した。Kdm5aは、ヒストン脱メチル化酵素であり、塩基配列によらない、すなわちエピジェネティックな遺伝子発現の調節を行うことが報告されている。幹細胞は多分化能と未分化性維持の相反する性質を持つが、この性質はエピジェネティックな遺伝子発現調節により説明することができるのではと考え、精子幹細胞におけるKdm5aの挙動に着目した。本研究では、Kdm5aの機能解析を目的とし、これにより精細胞分化機序の解明、および男性不妊症の治療法への応用が期待できると考えた。生後9日目のラット停留精巣で高発現する24遺伝子をマイクロアレイ解析にて同定した。その24遺伝子の中で、Kdm5aは停留精巣において、生後3日目から9日目にかけて発現の増加を認め、その後は18日目にかけて徐々に減少傾向を認めた。さらに生後9日目において正常精巣と比較して、Kdm5aは停留精巣で有意に発現亢進していた。Kdm5aは、精細管内における精細胞の支持細胞であるSertoli細胞や間質細胞であるLeydig細胞には発現を認めず、有糸期の未分化精細胞、精原細胞、精母細胞のそれぞれの核に発現していた。Western blotによる検討では、生後9日目の停留精巣においてH3K4me2/me3の発現低下を認め、低メチル化状態であることが確認された。Kdm5aを強制発現させたGC-1細胞において、精子幹細胞分化に関わると過去に報告されたEsr2、Neurog3、Pou5f1、Ret、Thy1の有意な発現亢進を認めた。
2: おおむね順調に進展している
まずマイクロアレイ解析の結果をもとに、Kdm5aに着目し、Kdm5aの正常・停留精巣における発現差について経時的に定量PCR、Western Blotを用いて確認した。その結果、マイクロアレイ解析と同様に生後9日目の停留精巣においてKdm5aは有意に発現亢進していることを確認することができた。次に、正常・停留精巣におけるKdm5aの局在について免疫染色を行ったところ、Kdm5aは精原細胞に発現し、特に核内に発現していることを確認することができた。また、その他の精巣を構成するセルトリ細胞やライディッヒ細胞には発現していないことも確認することができた。Kdm5aはヒストンH3K4の脱メチル化酵素であることが報告されているため停留精巣におけるメチル化の状態をWestern Blotで評価したところ、H3K4me2/me3の発現が低下しており、低メチル化状態であることを確認することができた。Kdm5aの機能解析のため、精子幹細胞の培養株であるGC-1細胞でKdm5aを強制発現させたところ、精子幹細胞分化に関与する遺伝子(Esr2、Neurog3、Pou5f1、Ret、Thy1)の有意な発現亢進を認めた。つまり停留精巣においてKdm5aが高発現していることにより、H3K4における脱メチル化を介して精子幹細胞の分化を障害されている可能性が示唆された。
Kdm5aの機能解析のための遺伝子導入実験では、精子幹細胞の培養株であるGC-1細胞でKdm5aを強制発現させたところ、精子幹細胞分化に関与する遺伝子(Esr2、Neurog3、Pou5f1、Ret、Thy1)の有意な発現亢進を認めた。しかしKdm5aがどの領域のヒストンの脱メチル化を行なっているのかについては明らかではない。そこで、クロマチン免疫沈降法を用いたヒストン修飾領域の検索を行う。ゲノム上のヒストン修飾の状態を解析するためには、クロマチン免疫沈降法(chromatin immunoprecipitation, ChIP)が用いられる。ChIP法は、転写調節因子やその他のタンパク質が直接相互作用するDNA領域の特定部位を分離し、目的とする遺伝子特異的プライマーでPCR反応を行うことで、ヒストン修飾状態を定量化することが可能である。またChIP法で得られたDNAをプロモーターアレイにハイブリダイズすることで、ゲノム上にヒストン修飾をマッピングすることが可能である。この手法により、停留精巣におけるKdm5a応答遺伝子の同定を行う。また精子幹細胞の培養細胞系の確立を行い、培養細胞への遺伝子導入を用いたKdm5aの機能解析を行う。初代培養にてKdm5aを強制発現させ、mRNAの発現について定量PCR、タンパクの発現についてWestern Blotにて検討する。またH3K4のメチル化の変化についても検討する。これらはGC-1細胞を用いるより、より正確なKdm5aの機能解析を行うことができると考える。
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THE JOURNAL OF UROLOGY
巻: 191 ページ: 1564-1572
10.1016/j.juro.2013.10.071