研究概要 |
腎細胞癌に対して施行した腎摘除術による外科切除検体120例を用いて、芳香族炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor: AhR)の免疫染色を施行し臨床病理学的に検討を行った。組織学的グレードが高い(G3, G4)症例は、グレードが低い(G1, G2)症例と比較して腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte: TIL)におけるAhRの発現が高かった(p<0.05)。また、病理学的病期(T因子)において、筋層浸潤以上(pT2以上)の症例は筋層浸潤未満(pT1以下)の症例と比較してTILにおけるAhRの発現が高かった(p<0.05)。さらに生存分析では、TILのAhRの発現が高い(50%以上)症例は低い(50%未満)症例と比較して有意に再発・進展が多いことを明らかにした(p<0.05)。 さらに外科切除検体の切片を、各種細胞表面マーカー(Foxp3、L26、CD3、CD4、CD8)の抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。外科的切除後に再発を認めずに生存している症例(good prognosis)と腎細胞癌死症例(poor prognosis)とを免疫組織学的に比較検討した。 ①AhR発現細胞とregulatory T細胞は癌死症例に多く認められ、特に腫瘍辺縁部でその傾向が強い②症例の予後にかかわらず、B細胞よりもT細胞が優位に認められ、特に腫瘍内部でその傾向が強い③癌死症例では、細胞傷害性T細胞と比較してhelper T細胞が優位に認められた、という知見が得られた。 制御性T細胞およびhelper T細胞のうちTh17細胞の分化にAhRが関与していることが報告されており(Quintana et al. Nature 453: 65- 71, 2008)、本研究の結果からも腫瘍免疫においてAhRが関与している可能性が示唆された。
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