本年度は、第二極体(PB2)融合による混倍数性受精卵の作出とその発生能の調査を目的として、PB2と割球の融合方法の検討、および融合した割球内におけるPB2ゲノムの挙動を調査した。更に、PB2を融合した割球(3倍体細胞)の発生運命を解析した。不活化センダイウイルス(SV)法と電気融合(EF)法による、2細胞期でのPB2と割球の融合率は、SV法で93.8%、EF法で90.4%であった。それらの融合卵の胚盤胞期への発生率は、SV法で93.8%、EF法で87.2%であり、両方法の成績に有意差はみられなかった。ただし、時間当りの融合卵作出効率はSV法がEF法よりはるかに高く、操作性の点でSV法が優っていた。そのため、以下の実験にはSV法を採用した。3倍体細胞におけるPB2由来の染色体は、分裂中期には割球由来の染色体と同調して凝縮し、紡錘体に取り込まれて赤道面に並んでいる像が確認された。GFPマウスのPB2を用いて作製した融合卵の観察では、GFP蛍光は4細胞期まで認められなかったが、桑実期以降では40%以上に観察された。GFP陽性であった19個の胚盤胞について内部細胞塊(ICM) と栄養膜(TE)を分染してGFP蛍光分布を観察したところ、2個はICM、15個はTE、残り2個は両方に蛍光が認められた。胚盤胞期の融合卵を偽妊娠マウスの子宮に移植し、得られた胎齢11日の胎仔12個体とその胎盤の凍結切片から3倍体細胞の局在を調査した結果、胎仔のいずれにも3倍体細胞は認められなかったが、1例の胎盤に3倍体細胞が観察された。以上の結果から、融合卵作製にSV法が効率的であること、融合したPB2は、割球の細胞周期に同調して紡錘体を形成すること、また、PB2由来の3倍体細胞の一部は胎盤組織になるものの胎仔組織には分化せず、多くは妊娠初期に退化消失する運命であることが示唆された。
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