子宮内膜癌細胞株HEC151(p53野生型)、HHUA(p53部分機能変異型)、HEC1B(p53機能喪失変異型)を実験に用いた。いずれの細胞もSirtuin1(SIRT1)発現抑制によりWST-1アッセイで増殖能の有意な低下が観察された。またHHUA細胞にSIRT1 cDNAを導入して安定高発現させたHHUA-SIRT1では増殖能が亢進したが、この作用はSIRT1選択的阻害剤EX527、PI3K阻害薬、MEK阻害薬により相殺されたことから、SIRT1による増殖促進作用はPI3K経路、MAPK経路依存性と考えられた。また、HHUA-SIRT1ではシスプラチン耐性増強が観察されたが、この作用はEX527で相殺されたがPI3K阻害薬、MEK阻害薬では相殺されなかった。SIRT1はp53を脱アセチル化して不活化することが知られており、SIRT1による抗癌剤耐性増強作用にもp53が関与することが報告されている。しかし、SIRT1選択的阻害薬EX527は、p53変異状況にかかわらず、3種全ての細胞株でシスプラチン耐性を減弱させた。このことは、SIRT1がp53変異状況にかかわらず、治療標的となり得ることを示している。 次にマウス皮下異種移植モデルを用いEX527の抗腫瘍効果を検討した。HHUA-SIRT1細胞では、コントロール細胞と比較して腫瘍体積の増大(40%増大、p=0.006)、CDDP耐性の増強を認め、EX527は腫瘍増大を著明に抑制した。またHEC1Bマウス異種移植腫瘍でもEX527投与は有意な腫瘍増大抑制効果を認めた(p<0.05)。一方、EX527投与によりマウスの体重変化等の顕著な有害事象は確認されなかった。これらのことより選択的SIRT1阻害剤EX527はSIRT1高発現株で著明な腫瘍抑制効果を示し、EX527は子宮内膜癌に対する新規抗腫瘍薬となりうることが示唆された。
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