研究課題
本研究では、未だ有効な予防法も治療法も確立されていない周産期脳障害に対する新たな治療法の確立を目指し、成人脳梗塞動物モデルで画期的な治療効果を認めた分子状水素に着目し、これを経母体的投与することにより新生児の脳障害の発症への予防的、治療的効果を検証するものである。妊娠ラットの子宮動静脈を妊娠16.5日目に30分間ペアン鉗子にて遮断し虚血後、これを解除し再灌流させることで胎仔へ酸化ストレスに起因する脳障害を発生させる。開腹のみのsham群、虚血・再灌流群(I/R群)および虚血・再灌流前から分娩まで水素飽和水(HW)を自由飲水させた水素飽和水投与群(HW群)の3群で検討した。1.胎盤及び仔脳についてホルマリン固定切片を作成し、ヘマトキシリンエオジン染色にて組織学的、細胞学的に酸化ストレスによる障害による変化およびHW群での改善の程度を検討した。I/R群の新生仔脳において、海馬神経細胞の変性を認めた。またこの傷害はHW群において、sham群と同程度まで改善した。2.同様に核酸の酸化ストレスマーカーである8-OHdG、脂質の酸化ストレスマーカーであるHNEの抗体を用いて免疫染色した。新生仔脳海馬および胎盤において、I/R群で酸化ストレスマーカーの高発現を認め、HW群ではsham群と同程度であった。3.海馬の障害を検討するため、行動実験としてMorris水迷路実験を行った。I/R群はsham群と比べ、学習能力の遅延を認めたが、HW群はsham群と同程度に学習能力の改善を認めた。4.ガスクロマトグラフィーを用いて胎盤、胎児における水素濃度を測定したところ、HW投与により組織中水素濃度の上昇を認めた。
2: おおむね順調に進展している
一部未実施のもの、実施するも期待する結果の得られていないものがあるが、概ね当初の実験計画に基づいて勧められており、水素飽和水の効果も期待通り認められる。
本動物モデルを用い、周産期脳障害の病態および水素水の作用機序を分子生物学的に解明する。胎仔脳組織についてsham群、I/R群およびHW群それぞれDNAマイクロアレイ遺伝子発現解析を行い遺伝子発現の変化を網羅的に解析する。発現が増減した遺伝子群に着目し、ラット培養脳神経細胞へのsiRNA遺伝子導入で発現をノックダウンさせるin vitroの系でも検討を行いたい。
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Free Radical Biology and Medicine
巻: 69 ページ: 324-330
10.1016/j.freeradbiomed.2014.01.037