研究課題/領域番号 |
24791698
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 史朗 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (20612758)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 婦人科腫瘍 / 悪性卵巣腫瘍 / 腫瘍免疫 |
研究概要 |
卵巣明細胞腺がんにおける抗がん剤併用Glypican-3 (GPC3)ペプチドワクチン療法の検討として、免疫抑制作用のある抗がん剤併用群においてもGPC3特異的CTLが誘導されうるかをTC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)とGPC3ワクチン療法を併用した1症例に関して、Ex vivo IFN-γ ELISPOTアッセイを用いた免疫学的モニタリングによりワクチン投与前に比べ、ワクチン投与後でGPC3特異的CTLが末梢血中に増加していることを確認した。 HLA-A24結合性GPC3ペプチドに対して高親和性であるCTLクローンがこれまでに樹立されていないため、HLA-A24陽性卵巣明細胞腺がん株についての基礎的研究は遅れている。そのため、ワクチン投与を行った進行卵巣明細胞腺がん患者3症例の余剰PBMCを用いて、HLA-A24拘束性GPC3ペプチド特異的CTLクローンの樹立を行った。方法としてはPBMCをin vitroにてペプチド刺激培養後(ペプチド濃度・各種サイトカイン条件を設定)のGPC3-Dextramer陽性T細胞やCD8陽性T細胞、培養なしのex vivo GPC3-Dextramer陽性T細胞などをそれぞれsingle cell sortingもしくは限界希釈する方法を行った。3症例中2症例において、ペプチド刺激培養後のGPC3-Dextramer陽性T細胞をsingle cell sortingした中から複数のCTLクローンが樹立された。樹立されたCTLクローンのGPC3ペプチド特異性は確認できたが、親和性が高くないためか十分な細胞傷害性を示すことができなかった。 抗がん剤併用GPC3特異的細胞療法については、マウス卵巣がん細胞株ID8を米国より分与いただき、本細胞株のmGPC3およびマウスMHCクラスI(H-2DbおよびH-2Kb)発現を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初回治療後の残存腫瘍に対してSecond-line化学療法を予定されている非寛解群へのGPC3ワクチン療法併用症例がこれまでに3例と少数であり、GPC3ペプチドワクチン療法における至適併用抗がん剤の種類や投与量といった臨床的評価が遅れている。 抗がん剤併用GPC3特異的細胞療法については、すでに樹立されているHLA-A2拘束性GPC3ペプチド特異的CTLクローンが繰り返しのexpansionの影響により増殖不良となってきたため細胞療法に使用できる細胞数に限りが生じた。そのため、HLA-A2陽性およびGPC3陽性である卵巣明細胞腺がんの腹膜播種マウスモデル(ヌードマウス)に対するHLA-A2拘束性GPC3ペプチド特異的CTLクローンを用いた細胞療法単独療法および抗がん剤併用療法について遅れが出ている。 代わりにすでに腹膜播種形成が確認されているマウス卵巣がん細胞株ID8について、腫瘍抗原特異的細胞療法およびワクチン療法の検討を行なうための予備検討を進めることができている。 HLA-A2拘束性GPC3ペプチド特異的CTLクローンが、軽度の増殖抑制はおこすもののアポトーシスはきたさない程度のsubtoxicな抗がん剤用量であっても前治療を併用することでCTLによる細胞傷害効果の上乗せがみられる機序について、subtoxic用量によって標的がん細胞のGPC3やHLA classIの有意な発現上昇は認められなかった。また、マンノース-6リン酸化(M6P)タンパク質であるグランザイムBは、標的細胞表面上の受容体に結合してパーフォリンと共に標的細胞に取り込まれるが、同様なsubtoxic用量によって標的がん細胞のM6Pレセプターの有意な発現上昇も認められなかったため、作用機序の解明についてはさらなる検討を要すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初回治療後の残存腫瘍に対してSecond-line化学療法を予定されている非寛解群へのGPC3ワクチン療法併用症例については引き続き、Ex vivo IFN-γ ELISPOTアッセイを用いた免疫学的モニタリングを行う。臨床的にstable disease以上の効果が得られた症例については、抗がん剤投与量との関係を中心に臨床的検討を加える。また余剰PBMCを用いて、ワクチン投与前後における免疫担当細胞(腫瘍関連マクロファージ(TAM)、抑制性ミエロイド細胞(MDSC)、Th1/Th2バランスおよび制御性T細胞(Treg)など)の表面抗原解析をフローサイトメトリー(FCM)にて行う。 HLA-A24拘束性GPC3ペプチド特異的CTLクローンの樹立については、進行患者以外もしくは臨床効果の得られた患者のワクチン投与後余剰PBMCを用いて行う。GPC3ペプチドに対してより高親和性であるCTLクローンを樹立するため負荷するペプチド濃度やサイトカイン(IL-2, IL-15など)濃度を変更して行う。 抗がん剤併用GPC3特異的細胞療法については、マウス卵巣がん細胞株ID8を用いた腹膜播種モデルによる検討を進める。mGPC3の発現を認めなかったため、mGPC3遺伝子を導入し、強制発現させたID8-mGPC3細胞株をまず作成する。同細胞株に対して、卵巣がんに一般的に使用されることのある抗がん剤(パクリタキセル、カルボプラチン、シスプラチン、ゲムシタビン、ドキソルビシン塩酸塩、イリノテカン等)療法のin vitro効果および腹膜播種モデルへの効果を評価した後にGPC3ペプチドワクチン併用療法・GPC3ペプチド特異的CTLラインによる細胞療法の効果を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在抗がん剤併用GPC3ワクチン療法継続中である2例について、2例中(ともにイリノテカン併用)1例で半年以上のstable diseaseが得られており、さらに経時的にPBMCを蓄積し免疫学的モニタリングを行う。Second-lineとしてイリノテカンを含むレジメで治療される症例が多いことから、タキサン系とプラチナ系薬剤に加えイリノテカン併用によるがんワクチン療法と抗がん剤併用療法の有効性についての検討を他剤より優先して行う。 HLA-A24拘束性GPC3ペプチド特異的CTLクローンの樹立については、臨床効果の得られた患者のワクチン投与後余剰PBMCを用いて行なう。ペプチド刺激については負荷するペプチドを低濃度とし、サイトカインについてはIL-2±IL-15やIL-7などの検討を濃度条件を設けて行う。 抗がん剤併用GPC3特異的細胞療法について、ID8株を用いた腹膜播種モデルによる検討を進めるため、mGPC3遺伝子を導入し、強制発現株ID8-mGPC3およびコントロールとしてmock細胞株を作成する。同細胞株に対して、抗がん剤(まずパクリタキセル、カルボプラチン、イリノテカン)のin vitro効果(抗がん剤感受性や遊走・浸潤能)を評価する。その後に腹膜播種モデルへの効果を評価する。また、mGPC3ペプチド特異的CTLラインの効率的な誘導方法について検討する。誘導されたCTLラインについては機能解析としてIFN-γ ELISPOT アッセイやFACS解析を行いmGPC3ペプチド特異性を評価し、さらにin vitroでの抗がん剤併用療法の効果についても検討する。 HLA-A2陽性およびGPC3陽性卵巣明細胞腺がんの腹膜播種マウスモデルに対するHLA-A2拘束性GPC3ペプチド特異的CTLクローンを用いた細胞療法についても残る親和性の異なるCTLクローンで引き続き検討を行う。
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