研究課題
マイクロアレイ解析から、卵巣明細胞腺癌で高発現し、オートファジーに関係しているNRF2転写活性が亢進していることがわかった。また免疫組織染色からNRF2発現が卵巣明細胞腺癌において高発現していることがわかったが、漿液性腺癌などのその他の組織型でも発現していることがわかった。また、当初の仮説では卵巣明細胞腺癌において活性化しているNRF2転写因子がLC3(オートファジー活動性マーカー)やp62(オートファジーにより制御されNRF2を活性化する制御因子)と関連があると思わたが、NRF2とLC3-II(LC3の活動型)発現との関係は認めなかった。そこで、卵巣明細胞腺癌で高発現しているHNF1βの腫瘍内代謝の役割を検討するためにHNF1βノックダウンRMG-II細胞株とコントロール・ノックダウンRMG-II細胞株とを用いてマイクロアレイ解析を行った。この解析により、HNF1βは多くのアミノ酸トランスポーターを制御し、脂質代謝、酸化ストレス耐性などに寄与することがわかった。また、HNF1βノックダウンRMG-II細胞株では酸化ストレス耐性に寄与するグルタチオンの合成に必要なシスチンのトランスポーターであるSLC3A1の発現が減少した。さらに、細胞内のグルタチオンの合成が減り、細胞内の活性酸素種が増加し、酸化ストレスへの耐性が減弱した。以上の結果から、卵巣明細胞腺癌ではHNF1βがアミノ酸トランスポーターSLC3A1を制御してグルタチオンを合成し、グルタチオン合成という代謝を介して酸化ストレス耐性に寄与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の仮説では卵巣明細胞腺癌において活性化しているNRF2転写因子がLC3(オートファジー活動性マーカー)やp62(オートファジーにより制御されNRF2を活性化する制御因子)と関連があると思わたが、NRF2は明細胞腺癌で高発現していたものの、LC3やp62とは関連を認めなかった。よって平成24年度の研究計画である「1) 卵巣癌各組織型、特に明細胞腺癌におけるNrf2活性の確認、オートファジー、p62発現の検討」は確認されなかったため、「2) バイオインフォマティックスを用いたNrf2転写活性やオートファジー活動性の評価」は行われなかった。更に平成25年度計画の「4) p62 signatureの同定とその生物学的な意義の評価」は行う予定はしていない。しかし、HNF1βがオートファジーともかかわりのある代謝に影響を与えるアミノ酸トランスポーターを多く制御していることがわかった。さらに、HNF1βはシスチンのトランスポーターであるSLC3A1の発現を上昇させ、グルタチオンを増量させて酸化ストレス耐性に寄与していることがわかったため、平成25年度計画である「3) HNF1βの網羅的メタボローム解析(メタボロミクス)やオートファジーへ与える影響を検討」を行い、グルタチオンのみならずシスチンの動きなど代謝産物全体の動きを確認する必要がある。本研究から「卵巣明細胞腺癌では高発現しているHNF1βがアミノ酸トランスポーターを介して代謝を制御し、酸化ストレス耐性に関与している」ことが示唆されるため、卵巣明細胞腺癌の酸化ストレス耐性に代謝が関与しているという仮説は大きく指示される。
卵巣明細胞腺癌では高発現しているHNF1βがアミノ酸トランスポーターを介して代謝を制御し、酸化ストレス耐性に関与している、ことが示唆されたため、予定通り平成25年度計画である「3) HNF1βの網羅的メタボローム解析(メタボロミクス)やオートファジーへ与える影響を検討」を行う予定である。また、RMG-II細胞株のみで行っているため、その他の細胞株でもHNF1β抑制株を作成し、アミノ酸トランスポーターSLC3A1への制御、グルタチオン合成、酸化ストレスへの耐性を確認する必要がある。また、SLC3A1ノックダウン細胞株を作成し、SLC3A1によるグルタチオンの制御、酸化ストレス耐性機序を検討する必要性がある。
メタボローム解析、発現マイクロアレイ解析、分子生物学的各種キット、培養液などに研究費を使用する予定であったが、ほぼ予定通りに使用する計画である。可能であれば細胞株数を増やして網羅的メタボローム解析を行うと、より一般的な現象として検討可能である。300万円程度増額していただければ、解析可能である。
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