研究課題
進行卵巣癌に対する術前化学療法投与前後における腫瘍組織を用いた発現マイクロアレイデータ解析によって、腫瘍局所では、免疫に関わる100種類以上の遺伝子と10種類以上の遺伝子群が上昇することがわかった。特に免疫細胞分画に関わるCD3,CD8遺伝子が有意に上昇していることから、化学療法によって、腫瘍局所に免疫細胞浸潤が促進されている可能性があり、すなわち免疫活性化が生じている可能性が示唆さられた。さらにこれらのpair解析にて化学療法後にCD8遺伝子発現(キラーT細胞浸潤を示す)が上昇しない症例は短期間で再発するが、上昇する症例は再発しない傾向にあることが示された。さらに、免疫を抑制的に作用させる制御性T細胞のマスター遺伝子FOXP3遺伝子や免疫抑制性副シグナル受容体PD-1(PDCD1)の発現変化の解析において、治療後に低下する症例はやはり有意に再発しなかった。実際に当科で手術後に化学療法を行い2回目の手術を行った症例20例を対象として、それぞれ摘出腫瘍の病理切片の免疫組織染色にて、2度目の手術治療後に再発する症例は抗がん剤投与後2回目の手術の組織中のCD8T細胞浸潤は上昇しておらず、逆に無再発症例はCD8Tsaibouga 高度に浸潤していた。また、FOXP3の免疫染色でも、無再発症例は低下傾向であった。即ち、化学療法によりある種の免疫活性が腫瘍局所に誘導され予後改善に寄与している可能性があるが、一方で全く反応しない症例は予後不良となる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
化学療法前後の、発現マイクロアレイデータ解析から、予想以上に多くの免疫に関連した遺伝子および遺伝子群(Signature)が抽出された。その中でも最も期待していたCD8(キラーT細胞分画)が大きく動いており、その動きが再発などの臨床情報とクロスリンクすることを示すことができた。またこのデータを裏づけるように、他のT細胞CD分画やT細胞受容体関連遺伝子やHLA関連遺伝子も大きく動いていたことから、単に化学療法は一時的に全身の免疫力を落とす(免疫細胞数が減少する)、という臨床データー上の作用だけではなく、腫瘍局所では、ダイナミックに免疫反応が誘導されている可能性が示された。そこで、卵巣癌組織を用いて上記のタンパク発現を検討した結果、腫瘍浸潤キラーT細胞診順と再発との相関を導き出すことができ、発現マイクロアレイ解析の結果と同様の結果を示すことができた。以上から、当初の計画通り実行できており、今回の結果は腫瘍局所における化学療法の免疫学的作用の一端を解明することができたと考えられるので、上記評価とした。
今回の研究で検討した化学療法は、卵巣癌の第一選択薬であるパクリタキセルとカルボプラチンであったが、臨床的に改善を期待したいのは、第2,3選択薬である。そのため今後の研究の推進方策として、ゲムシタビンやイリノテカンなどのこれまでと機序のことなった化学療法についても、今回と同様に検討を行いたい。即ち、今回の検討で第1選択薬との併用を、今後においては第2,第3選択薬の補助薬となるような免疫療法のシーズを探索し、綜合的に卵巣癌患者の予後改善を目指す基礎的検討を行いたい。また研究資材としては、今回の検討で使用したマイクロアレイ遺伝子チップよりもより高精度かつ遺伝子セットも増量されたチップが安価で購入が可能となっており、解析対象となる遺伝子が格段に増えることとなるため、より有意な遺伝子や遺伝子群(gene signature)をさらに多く抽出することが可能となる。また、免疫に関わる遺伝子にカスタマイズしたチップをオーダーメイドをすることにって、より安価で効率的に遺伝子解析ができると考えている。今回得られた知見は、卵巣癌患者検体を持ちた観察研究であり、さらに確実な内容にするために、卵巣癌細胞株を用いたin vitro実験や、マウスを用いたin vivo実験を用いた機能的研究へと発展させていき、将来的には、特に、FOXP3やPD-1シグナル阻害と化学療法を併用するような新たな治療法の開発に結び付けたい。
該当なし
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