研究概要 |
【目的】子宮内膜症の診断法は、腹腔鏡または開腹による視診と組織診での確定診断が推奨されているが、外科的侵襲を伴い患者の負担となっている。そこで、高精度で簡便な診断方法の確立を目指し、新たな血清診断マーカーを探索した。 【方法】二次元電気泳動およびWestern blottingを行い、子宮内膜症患者と健常者の血清中に存在する自己抗体を検索した。患者血清に特異的に反応したスポットをMALDI TOF-MSを用いて解析し、抗PDIK1L自己抗体を同定した。リコンビナントタンパク質を精製し、血中自己抗体検出のためのELISA法を確立し解析した。免疫組織染色にてPDIK1Lタンパク質の組織発現性を解析した。本研究は倫理委員会の承認とinformed consentを得て行った。 【結果と考察】ELISA法で解析した結果、子宮内膜症群 (369.7±214.8 U/ml, n=74)の抗PDIK1L自己抗体価は、健常対照群 (155.8±95.2 U/ml, n=44) および疾患対照群 (203.4±129.5 U/ml, n=38) と比較して有意に高値 (vs.健常対照群 p=3.5×10-11、 vs.疾患対照群 p=1.9×10-6) であった。血清抗PDIK1L自己抗体価の診断能 (感度 58.1% 、特異度 84.1% ) は既存の血清マーカーであるCA125 (感度 36.5% 、特異度 85.4% ) に対し明らかに優れていた。更に両者を併用することで子宮内膜症診断の感度を73.0% まで上げることが可能であった。免疫組織染色にて解析した結果、子宮内膜症組織でPDIK1Lの発現が強く認められ、子宮内膜症症例の94.7% に発現していた。このタンパク質が月経の度にホルモン依存的に傷害され腹腔内等へ漏出し、腹腔内免疫が引き起こされることによりPDIK1L自己抗体が産生されると推察される。 【結論】子宮内膜症診断の新たな方法として抗PDIK1L自己抗体を見出すことに成功した。今後更なる臨床的、基礎的解析により、その有用性を証明する予定である。
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