研究課題
乳癌の浸潤、転移においては、SDF1/CXCR4/Ga13/Rhoシグナル経路の活性化が重要な役割を果たしていることを、これまでに我々は報告した。本研究では子宮頸癌、卵巣癌などの婦人科領域の悪性腫瘍の浸潤、転移におけるCXCR4を中心としたGPCRシグナル経路の役割について解析を行った。転移、浸潤能の高い子宮頸癌細胞株においては、乳癌の場合と異なり、SDF-1/CXCR4/Gai/Racシグナル経路の活性化が細胞浸潤を制御していることが、in vitroの実験で示された。さらに、SDF-1/CXCR4/Gaiシグナル経路はp38の活性化を介して、リンパ管新生を誘導するVEGF-cの発現を制御していることが示された。卵巣癌においては、SDF1/CXCR4/Ga13/Rhoシグナル経路の活性化が細胞浸潤ではなく細胞増殖を制御していることが示された。今後はさらにRhoシグナルの下流のシグナル伝達経路について解析を行っていく予定である。癌の増殖、進展の様々な過程にCXCR4を含む様々なGPCRが関与していることや、現在の市場における治療薬の25%以上がGPCRを標的としていることを考慮すると、あるひとつのGPCRにより制御される複数のシグナルのうちの特定の経路のみを選択的に阻害するというコンセプトはシグナル選択的なGPCR阻害剤やGPCRの構造変化を促すアロステリックタンパク質といった新たな治療薬の開発にもつながると期待される。
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