研究課題/領域番号 |
24791712
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
三浦 生子 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 研究員 (00404301)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | HTLV-1 / 妊婦 / キャリア / スクリーニング / ウエスタンブロット / 判定保留 / PCR / 臍帯血 |
研究概要 |
1.検体集積およびHTLV-1プロウイルス量測定法の有用性の確認:長崎県において、リアルタイムPCR法を導入した妊婦HTLV-1スクリーニングシステムを確立した。22039例の妊婦をPA法もしくはCLEIA法で一次スクリーニングし、陽性227例、疑陽性35例および陰性21777例であった。陽性/疑陽性262例にWestern blot(WB)法で確認検査を実施し、陰性30例、陽性195例であった。WB判定保留37例(14.1%)について、リアルタイムPCR法で陰性14例、陽性30例と診断した。WB法と定量的PCR法によるHTLV-1感染の判定結果をみると、WB法で陰性例にはプロウイルスは認められず、陽性例には全てプロウイルスの存在を確認し得た。一方、WB法で判定保留例には、プロウイルスが存在しないものから、WB法で陽性例と同等のウイルス量を認めるものまで様々であった。WB法で判定保留例のうち、PCR法で陰性例の抗体価は、陽性例のそれと比較していずれも低値であった。PCR法による確認検査実施のカットオフ値は、CLEIA法によるHTLV-1抗体価が0.5-1.7の間に存在することを示唆した。 2.妊娠経過に伴う母体血中HTLV-1プロウイルス量の変化の同定:妊娠中および分娩後のHTLV-1キャリア妊婦における血液中のプロウイルス量(平均値:最小値-最大値)をリアルタイム法で測定し比較検討した。妊娠中のプロウイルス量は50.4 (0-520.93)/10000cell、一方、分娩後のそれは18.9(0-134.95)/10000cellであり、分娩に伴い血中HTLV-1プロウイルス量が有意に低下することが明らかになった(Wilcoxon signed rank test, p<0.001)。また、HTLV-1キャリア妊婦42例のうち1例の臍帯血液中にプロウイルスの存在を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度の研究計画と明確な研究目標は以下の通りであった。TaqManPCR法を応用した母体血中HTLV-Iプロウイルス量測定法の有用性を確認し、妊娠経過に伴う母体血中HTLV-1プロウイルス量の変化を明らかにする。 1)検体集積(三浦):長崎大学病院倫理委員会の承認を得て、長崎県HTLV-I抗体スクリーニングシステムを活用して225例のHTLV-1キャリアの検体を集積した。妊娠経時的に産後一ヶ月検診時まで母体血液を採取し、また分娩時に臍帯血および胎盤を採取した。それぞれの検体から血球を採取して、DNA/RNA抽出キットを用いて、DNAおよびRNAを採取し、-80度フリーザーに検体を保管した。 2)HTLV-Iプロウイルス量測定法の有用性の確認(三浦):定量的PCR法は、長崎大学病院中央検査室(上平教授)が開発しているPCRプローブを活用し、測定機器はLightCycler® 480を用いた。長崎県における妊婦HTLV-Iスクリーニングシステムのデータを利用して、抗体検査法(PAもしくはCLEIA法、およびWB法)の検査結果とTaqManPCR法を応用した母体血中HTLV-Iプロウイルス量測定法の結果とを比較検討することにより、妊婦における母体血中HTLV-Iプロウイルス量によるHTLV-I感染症の判定基準を決定した。また、臍帯血についても同様の方法でHTLV-Iプロウイルス量を測定した。以上のデータは、全てデータベース化した。 3)妊娠経過に伴う母体血中HTLV-Iプロウイルス量の変化の同定(三浦):妊娠経過に伴い経時的に採血した検体を用いて、分娩前後に伴う母体血中HTLV-Iプロウイルス量の変化を明らかにした。また、キャリア妊婦の臍帯血におけるプロウイルスに検出頻度に関する知見も得ることができた。 以上、研究計画は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究計画は順調に進展したため、平成25年度の研究計画も当初の計画通りに推進する。 これまで定性的にHTLV-1プロウイルスを検出するコンベンショナルPCR法では、母子感染が成立した4例の臍帯血液を解析したが、HTLV-1プロウイルスが検出されなかったことから、胎内感染の可能性は否定的とされてきた。そこで、平成24年度に有用性が確認された検出感度の高い定量的PCR法を導入することで臍帯血液中のプロウイルスの存在あるいは母体におけるHTLV-Iウイルス量と母子感染との関連を検討する。 1)検体集積(三浦):平成25年度もHTLV-Iキャリア妊婦の血液サンプルおよび臍帯血サンプルを採取する。 2)胎内感染の存在の有無を明らかにする(三浦):平成24年度に確立したHTLV-I感染症のPCR検査・診断法を用いて、臍帯血におけるHTLV-Iウイルスの定量実験を行い、母乳以外の感染経路の存在の有無を明らかにする。 3)HTLV-Iプロウイルス量と母子感染成立との関連を明らかにする(三浦):平成21年度および平成22年度に検体を採取しているHTLV-Iキャリア約300例については、平成25年度までに児が3歳になりHTLV-I抗体スクリーニングを受けて母子感染の有無が明らかになるので、母体血中あるいは臍帯血液中のHTLV-Iウイルス量、母体が選択した栄養法と母子感染成立との関連を比較することによりを明らかにする。また、1987年以降にHTLV-I抗体スクリーニングをうけた妊婦の中にATLを発症しているものが報告されており、妊娠時に採取され保管されている血液検体から血中ウイルス量とATL発症の有無との関連についても検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は研究に使用ために集積した検体の管理システムおよび研究結果のデータベース化に研究費を使用し、PCR試薬に使用する研究費が当初の計画よりも少なかった。計画通りに検体は集積されており、妊娠に伴うHTLV-1プロウイルス量の推移と母乳感染・胎内感染の可能性など母子感染ルートとの関連を明らかにするため、平成25年度は、母体血に加えて、臍帯血および胎盤などの検体もPCRによる解析を進める予定であり、当初の計画より多くの研究費をPCR試薬とプライマーに使用する予定である。
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