研究課題
われわれの研究グループでは、卵巣癌幹細胞の分子生物学的な特性を解析するために、樹立した卵巣癌マウスモデルを用いて癌幹細胞に関与する細胞表面マーカーの解析、分子シグナルの同定、ならびにそれらを標的とした新規治療戦略の開発を目指し研究をすすめている。現在までの研究の成果を報告する。『卵巣癌におけるEpCAMの抗アポトーシス作用を介する抗癌剤治療抵抗性の分子メカニズムの解析』われわれが樹立したマウス卵巣癌幹細胞モデルにおいて、EpCAMが癌幹細胞のマーカーとしての役割を担っていることを見出したが、ヒト卵巣癌におけるEpCAMの機能については、ほとんど報告がなされていない。これまで行った実験結果として、卵巣癌においてEpCAM陽性の癌細胞がEpCAM陰性の癌細胞と比較して、抗癌剤治療抵抗性に関与することが示されている。はじめに進行卵巣癌に対して試験開腹術後に行った補助化学療法が奏効し、二次的な腫瘍減量手術を施行した症例を対象として臨床病理学的検討を行った。抗癌剤治療の前および後の卵巣癌組織においてEpCAMの発現を免疫組織化学的染色で検討した結果、抗癌剤治療後の卵巣癌組織では治療前と比較して有意にEpCAMの高発現が認められた。さらに、ヒト卵巣癌細胞株であるSKOV3とA2780における抗癌剤誘導性のアポトーシスについてアネキシンV染色法を用いて解析した結果、EpCAM陰性細胞と比較してEpCAM陽性細胞は抗アポトーシス作用を有していることが示された。また、ウエスタンブロッティング法による網羅的なアポトーシス関連蛋白の発現解析から、EpCAM陰性細胞と比較してEpCAM陽性細胞はアポトーシス誘導因子であるBaxの発現の低下と、アポトーシス抑制因子であるBcl-2の発現の上昇が認められた。以上より、EpCAM陽性細胞はアポトーシス抵抗性を獲得しており、抗癌剤に対し耐性を示すことが示された。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に示したように、これまでの解析の結果、卵巣癌幹細胞のマーカーとしてEpCAMが機能し抗癌剤治療抵抗性に関与していることが示された。今後は、得られた結果をもとにいくつかの分子シグナルの同定を行い、EpCAMと標的とした分子標的薬による治療実験を予定している。
これまでの一連の解析により、卵巣癌幹細胞における抗癌剤治療抵抗性のメカニズムの解明につながる重要な研究結果が得られている。EpCAMを標的とした分子標的薬であるAdecatumumabは、転移性乳癌に対しての臨床試験が開始されているが、卵巣癌に対する有効性は証明されていない。卵巣癌におけるAdecatumumabの有効性を検討するために、in vitroでヒト卵巣癌細胞株にAdecatumumabを添加し、フローサイトメトリーを用いて添加後のEpCAM陽性細胞の割合が添加前と比較して減少することを確認する。またWST assayによりAdecatumumabのヒト卵巣癌細胞株に対する抗腫瘍効果を検討する。さらに、in vivoでヒト卵巣癌細胞株を免疫不全マウスに移植し腫瘍形成させ、抗癌剤とAdecatumumabを投与し、腫瘍サイズや生存率などを比較検討することで、Adecatumumabの抗腫瘍効果や抗癌剤抵抗性の改善効果について検討する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Cancer Res.
巻: 15 ページ: 1855-1866
doi: 10.1158/0008-5472.CAN-12-3609-T.