ヒトICSI(intracytoplasmic sperm injection)における臨床成績の向上を目的とし、高倍率(3000倍)で精子を観察し、形態良好な精子を選別し卵内に注入する方法(intracytoplasmic morphology selected sperm injection:IMSI)の有効性・安全性についての基礎研究を実施した。 ICSIにおける精子形態と精子機能の関連性を評価すべく、ヒト不妊症症例からの精液検体の収取・凍結保存を行い、310例の検体の保存を行った。内訳は、タイミング療法中および人工授精(AIH)症例:186症例、体外受精およびICSI症例:114症例であった。約70%の症例において現在治療継続中であり、各症例の精子形態分類の結果と臨床成績の相関に対する最終評価には至っていないが、妊娠例および治療を終了した約30%の症例での検討では、運動精子における精子頭部および尾部の形態と、その後の妊娠予後における有意な関連性は示されなかった。 また、マウス卵を用いた精子機能評価において、運動精子と非運動精子間において形態異常の有無に関わらず、ICSI後の前核形成率の低下、染色体異常率の上昇を認めたが、運動精子において頭部形態異常の有無・尾部形態異常の有無によって前核形成率・精子核染色体異常率に有意差を認めなかった。 上記検討を随時行えるよう、既報に従いクライオトップ法でのガラス化法を用いて、マウス卵の凍結保存を行い、適宜融解後ICSIに用いた。またICSI後の染色体分析も実験時間の調節が可能なよう、ICSI後2-4時間の間に再度卵の凍結保存を行い、凍結のタイミングが受精率・染色体異常率に与える影響について追加実験を行い、ICSI前後の凍結融解処理の追加は受精率・染色体異常率に影響を及ぼさないことを確認した。これにより、マウス卵を用いた精子機能評価を日常診療時間に合わせて行う方法が確立された。
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