研究概要 |
細胞内小器官であるミトコンドリアは, ミトコンドリアDNA(mtDNA)を有している. mt DNA異常は, エネルギー産生能の低下につながり, 卵形成過程の減数分裂エラーと関わりを持つと考えられる. また, ミトコンドリア遺伝病の着床前遺伝子診断(PGD)は, 体外受精における初期分割期胚の割球におけるmtDNA中に占める変異型mtDNAの率(ヘテロプラズミー比率)の低い胚を優先的に胚移植し, 罹患児の妊娠を回避するものである. 従来の着床前診断(PGD)技術の基盤を活用し, 微量な細胞質に局在するmtDNAおよびmtDNA copy数制御関連核遺伝子の網羅的解析を行い, 重要なcopy number variation(CNV)・1塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)とヘテロプラズミー比率閾値を抽出し, さらに安全なPGD診断系を開発することを目的とする. 平成24年度は稀少な肺細胞から得られる稀少遺伝子の解析の困難性を克服するために, 主に全ゲノム増幅法のvalidationを行ってきた. 単一細胞由来のテンプレートDNAからも, 解析に十分な増幅が得られ, かつバイアスのない均一な遺伝子増幅が得られるかについての検討を行ってきた. 着床前診断における全ゲノム増幅法が, 標的遺伝子部位の直接解析とその変異近傍の遺伝子多型の情報からならハプロタイプ解析を可能とすることを示した. また稀少細胞のミトコンドリアコピー数解析において, 全ゲノム増幅法の実施により, 実用的なPGD実施が可能となることを示し, 学会で報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
mtDNAおよびミトコンドリア関連核遺伝子領域をカバーするoligonucleotide tiling arrayの設計・開発: 既知の変異mtDNAに関しては, mtDNAのアミノ酸コード領域を網羅するように設計されたoligonucleotide tiling arrayを開発し, mtDNAデータベースと核ゲノムのmtDNA copy数制御関連遺伝子の情報に基づくプローブを開発する予定であったが, その解析に先立つ全ゲノム増幅法の選択と評価についての検討までが行われている. 今後はアレイ技術のみならず, 新たに出現している次世代シーケンサーによる解析検討されており, 当初の研究内容と実施方法について変更を考慮しているため, 研究に若干の遅れを来した状態である.
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今後の研究の推進方策 |
1. mtDNAおよびミトコンドリア関連核遺伝子領域をカバーするoligonucleotide tiling arrayの設計・開発:mtDNAのアミノ酸コード領域を網羅するように設計されたoligonucleotide tiling arrayを開発する. 2. 次世代シーケンサーを用いたTargeted Sequencing法により, 新たなミトコンドリア・ヘテロプラスミー変異比率解析法を確立する. 3. ICSI/PGDの実施上で発生した極体と余剰胚・疾患罹患胚における割球およびフラグメンテーションを用いた全ゲノム増幅法の実施とmtDNA array解析によるSNP診断の精度検討・CNV解析による増幅バイアスの評価: 反復する着床不全や初期の流産の多くが受精卵の染色体異数性に起因するという論理を前提として, 着床前期胚に対する染色体異数性診断: preimplantation genetic screening(PGS)の診断系の確立を行う. 全ゲノム増幅技術とCGH array技術を組み合わせ, 迅速に多数の同時染色体数的異常の解析を行う. 検体として第1極体が最大の標的となる. 異数性胚の発生を調べると同時に, 1. にて開発されたmt DNAアレイによるmt DNA関連遺伝子の網羅解析を実施し, SNP・CNVおよび大規模欠失などのmt DNA遺伝子異常異常との関連解析のためのデータ収集を行う. 検体には, 初期分割期における割球とそのフラグメンテーション・第1極体および第2極体が用いる.
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額が生じた理由は当初予定していたoligonucleotide tiling arrayの開発研究が遅れたためであるが, 25年度に行う予定の研究計画と合わせて実施する. 主に, mtDNAおよびミトコンドリア関連核遺伝子領域をカバーするoligonucleotide tiling arrayの設計・開発に使用される. 同時に次世代シーケンサーを用いたTargeted Sequencing法により, 新たなミトコンドリア・ヘテロプラスミー変異比率解析法を確立するための試薬およびシーケンシングの実施に要する費用が中心となる.
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