研究概要 |
平成24年度では、『明細胞腺癌の発生および進行期におけるmTOR-HIFシグナル伝達系関連因子の動態の全容解明と本症発生の分子生物学的背景の追及と解明』を目的に様々な解析を行ってきた。 卵巣明細胞腺癌における免疫組織化学によるmTOR-HIF関連因子の発現解析を行ったところ、HIF-1αの発現は、全例で認めるものの、その発現パターンは核優位、細胞質優位、両者発現タイプの3つのパターンに分けられ、とりわけ明細胞腺癌では核優位タイプが多く存在し、HIF-1 DNA binding assayの結果からも核における活性型HIF-1の高発現を認めた。一方でHIF-1αの上流に位置する種々のシグナル伝達系関連因子の発現を解析したところ、卵巣明細胞腺癌では他の組織型に比して、Akt, p-Akt, mTOR, p-mTOR, p-4EBP-1が高発現しており、これらのシグナルの活性化が明細胞腺癌におけるHIF-1の高発現ならびに高転写活性をもたらしているものと推察された。同様にHIF-1αの下流因子(VEGF-A, GLUT-1, EPOなど)の発現も高発現を認めたことからmTOR-HIFシグナル伝達系の活性化は明細胞腺癌における高悪性化を引き起こすとともに薬剤低感受性など腫瘍の悪性形質の獲得の一因となっていることが示唆された。 また、real time RT-PCRよるこれらの因子のmRNAの発現ならびにwestern blottingによるタンパクの発現解析からも免疫染色と同様の結果を得られた。 さらに、HIF-1の恒常的分解系因子であるpVHLの発現について解析したところ明細胞腺癌ではあまり発現を認めないことから、本組織型ではpVHLが変異もしくは欠損していることもHIF-1の活性化に寄与していることが推察された。
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