研究課題
これまでに、上皮性卵巣癌における微小環境に関心を抱き、この中心的な役割を果たしていると考えられている低酸素誘導因子(Hypoxia inducible factor-1α: HIF-1α)、さらにはHIF-1αの誘導に係る因子(HIF-1関連因子)の発現に着目をし、上皮性卵巣癌の4組織型を中心に様々な解析を行ってきた。これらの解析からHIF-1αおよびHIF-1関連因子の発現は明細胞腺癌で高発現を認めた。また、HIF-1αの発現は必ずしも腫瘍の虚血状態のみを反映していないことが示唆され、mTOR-HIF-1シグナルの活性化がHIF-1を介した腫瘍増殖に影響を与えるものと推察された。実際にphosphorylated-mTOR: p-mTORが他の組織型に比して明細胞腺癌で有意に亢進しており、mTOR-HIF-1経路の活性化が明細胞腺癌における薬剤低感受性および予後不良の一因にもなっていることを報告した(Pathol Int. 2009 59:19-27.)。さらに、これらの結果を背景にmTOR-HIF-1経路の阻害による腫瘍へ与える影響をmTORの阻害剤everolimusを用い検討した。その結果、in vitroにおいて薬剤濃度依存的にHIF-1αはじめ下流因子の抑制効果が認められた。さらに同様の培養株をBALB/cヌードマウス皮下へ移植したモデルマウスにeverolimusを投与すると、有意に腫瘍縮小効果が認められた。以上の結果から上皮性卵巣癌の中でもとりわけ明細胞腺癌はmTOR-HIF-1経路の活性化により様々な薬剤耐性を獲得しているが故に難治性であることが推察された。また、mTOR阻害薬は、これらの活性化経路を阻害することによる抗腫瘍効果から明細胞腺癌の新たな治療薬としての可能性を大きく秘めており、本邦に多い明細胞腺癌患者の予後を改善し得るものと考えられた。
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