研究概要 |
胎盤は出生後に生じる唯一の臓器であり、胎児への栄養供給やガス交換、免疫学的支援などを司る胎児発生にとって重要な器官である。胎盤が形成される際には、胎児栄養膜細胞が母体脱落膜、子宮筋層へ適切に浸潤していくことが重要であり、その異常は流産や子宮内胎児発育遅延、妊娠高血圧症などの疾患と関連が深いことが知られている。そして、この胎児栄養膜細胞が浸潤していく環境は、血管形成が不十分なため、低酸素・低栄養環境にあると考えられている。低酸素・低栄養刺激は細胞にオートファジーを誘導する「飢餓」刺激となり得る。よってオートファジーが胎盤栄養膜細胞の浸潤を正に制御すると考えられているが、詳細は不明であった。我々はラット栄養膜細胞(Rcho-1)の分化に伴い、Galectin-4 (Gal-4)の発現が低下することを報告した(Placenta, 2012)。今回Rcho-1の分化系において、オートファジーの阻害剤である3-Methyladenineを分化培地に添加したところ分化マーカーの発現が低下し、胎児側から母体側への栄養膜細胞の浸潤能に重要であるMMP-9酵素活性が抑制され、さらにGal-4発現が低下せずに維持された。そこでGal-4をRcho-1で過剰発現させたところ、Rcho-1分化に特有である細胞の大型化や細胞運動の抑制が観察された。12dpcのラット胎盤におけるLC3タンパク及びGal-4の発現は、それぞれ母体脱落膜と、栄養膜細胞を中心とした胎児側に限局していることから、オートファジーによるGal-4の発現制御によって栄養膜細胞分化が制御されている可能性が示唆された。上記の成果の一部は研究代表者が筆頭著者としてPlacenta誌に論文を発表した(Placenta, 2012, Oct;33(10):885-7, 査読有)。
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