平成18年度の予備研究において、多人数の一般住民に対する純音聴力検査を行い、加齢に伴い難聴が進行すること、さらにそれには男女差が見られ、また個人差が見られることを示した。この個人差に着目し難聴を進行させる誘因を検索した。 1、動脈硬化の指標の一つである脈波伝播速度(PWV)を測定し、周波数ごとに聴力閾値を、年齢、性別、BMI、飲酒や喫煙といったライフスタイル、さらには騒音暴露の既往の有無により補正し多重比較を行った。その結果、男性、女性いずれにおいても聴力レベルとPWVの有意な相関が見られた。また、騒音暴露の既往があると高周波数で有意に聴力の低下を認めた。2、糖尿病関連因子としてHbA1c値を測定し、同様に騒音暴露の既往の有無も追加し、聴力閾値を年齢等により補正し多重比較を行った。しかし男性、女性ともに聴力レベルとの有意な相関は認められなかった。3、閉経後の女性に限定し骨密度と難聴との関連について検討を行った。骨密度として踵骨超音波測定法による音響的骨評価値(OSI)を用いて、周波数ごとに聴力閾値を、年齢、BMI等により補正し多重比較を行った。その結果骨密度の減少は聴力悪化の一要因となりうるものと考えられた。4、難聴と認知機能低下との関連性について検討した。健診受診者に対し簡易認知機能検査(MMSE : Mini-Mental State Examination )を行い、2つの周波数(1kHz、8kHz)における聴力閾値を、年齢、教育年数等により補正し多重比較を行った。8kHzでは聴力閾値とMMSEとの関連性が認められなかったが、1kHzにおける聴力低下とMMSE低下の関連が認められ、難聴に伴う認知機能の低下が示唆された。
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