本研究では、生体内に存在しないとされており加齢や慢性炎症などのストレスの影響により生じると考えられる代表的なD-アミノ酸であるD-アスパラギン酸について、耳鼻咽喉科領域の様々な疾患や組織における発現様式を免疫組織化学染色にて評価した。 口蓋扁桃においてはリンパ濾胞、間質組織及び管腔内にD-アミノ酸発現を認め、その発現量は年齢と有意な相関関係を認めた。また、ステロイドパルス前後のIgA腎症症例の口蓋扁桃を比較ではD-アミノ酸の発現パターンに差異が認められないこと、およびグルココルチコイドレセプターの発現部位とD-アミノ酸の発現部位は一致しないことを明らかにし、D-アミノ酸発現はアラキドン酸カスケードやNF-κBとの関連が低い可能性が示唆された。また、D-アミノ酸発現量とIgA腎症の重症度にも相関が低いことも明らかにし、口蓋扁桃におけるD-アミノ酸発現は炎症による刺激以外の機序が関与している可能性が示唆された。 真珠腫におけるD-アミノ酸発現パターンは年齢により異なり、若年者では主に角質層やdebris、高齢者では上皮下の間質に多く発言が認められることが明らかとなり、真珠腫におけるD-アミノ酸は加齢変化や炎症性刺激以外の機序が関与している可能性が考えられた。 慢性副鼻腔炎における鼻粘膜の繊毛上皮下にもD-アミノ酸の強い発現が認められた。 声帯ポリープの重層扁平上皮内にもD-アミノ酸の発現がびまん性に認められた。 以上より、D-アミノ酸は耳鼻咽喉科領域の様々な疾患や組織中にも発現を認め、炎症や加齢による刺激に影響を受ける部位に発現を認めることが多いが、それ以外にも何らかの発現機序があることも示唆され、その機能的役割のさらなる解明が疾患動態の解明にも繋がる可能性が示唆された。
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