研究課題/領域番号 |
24791753
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊田 周 東京大学, 保健・健康推進本部, 助教 (00555865)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 嗅覚 |
研究概要 |
目的:嗅上皮傷害後の再生過程における嗅覚入力の影響を検討すること。 方法:成体マウスにメチマゾールを腹腔内投与することで左右嗅上皮を傷害した。 傷害後、片鼻にシリコンチューブを挿入し、片側鼻閉のマウスを作成した。開放側と閉塞側で嗅上皮の組織学的な回復過程(嗅上皮の厚み、細胞数)を経時的に比較し、嗅上皮傷害後の再生過程における嗅覚入力の影響について検討した。 結果:嗅上皮傷害がない場合には、片鼻を閉じても約1か月後の嗅上皮の厚みや細胞数に閉塞側と開放側で有意な差は観察されなかった。しかし、メチマゾール傷害群+片鼻閉じ群では開放側と閉塞側で再生過程に次のような違いが観察された。1) 傷害後3日後では閉塞側と開放側で有意差なく、同等の嗅上皮傷害が観察された。2) 傷害後10~14日後には開放側の嗅上皮の回復程度に比較して閉塞側のそれは遅れていた。3) 傷害後30日後には開放側の嗅上皮は傷害前の状態に組織学的に戻ったが、閉塞側の嗅上皮では依然として回復が不十分な箇所も観察された。以上から1か月程度の”鼻閉”は生理的嗅神経再生サイクルには組織学的に影響を与えないが、いったん嗅上皮が傷害を受けると、”鼻閉”環境は「傷害からの回復遅延」を引き起こすことを明らかにした。 結果の意義:嗅覚入力は嗅上皮傷害後の正のフィードバック機構に重要な役割を果たし、嗅覚入力が途絶えた状況下では、傷害後の嗅覚機能の回復が嗅上皮レベルで不完全に終わると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
嗅上皮傷害後の再生過程における嗅覚入力の影響を調べる中で、HE染色による嗅上皮での組織学的な変化を初年度に明らかにした。この組織学的な検討は、本プロジェクトにおいて中核となるデータであり、単一年度の達成状況として満足できるレベルである。また、初年度に、次年度以降に必要なマウス作成もほぼ済んであり、今年度得られた知見をさらに発展させ、免疫組織学的ならびに機能イメージング解析を行う上での基盤研究が推進できた。 今年度は主に下記項目について検討し結果を得た 1.片鼻閉じマウスにおける嗅上皮での組織学的検討(嗅細胞数、嗅上皮の厚み、支持細胞数) 2.メチマゾール投与による可逆的嗅上皮障害マウスおける嗅上皮での組織学的検討(嗅細胞数、嗅上皮の厚み、支持細胞数) 3.片鼻閉じ+メチマゾール投与マウスおける嗅上皮での組織学的検討(嗅細胞数、嗅上皮の厚み、支持細胞数)
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今後の研究の推進方策 |
嗅上皮障害後、鼻閉環境下でおこる嗅上皮再生遅延に関わる因子を検討し、再生遅延が嗅覚機能の損失を招くかどうかを検討する。具体的には次の項目を検討する。1)障害後の嗅上皮再生遅延に関わる因子を検討するために、障害+片鼻閉後1週間、2週間、4週間で嗅上皮のカスパーゼ3陽性細胞数、OMP陽性細胞数、Ki67陽性細胞数を計測する。2)障害後の嗅上皮再生遅延が結果として、嗅覚機能障害を伴うかどうかを検討するために、嗅球での機能イメージング解析を行う。具体的には、メチマゾール障害+片鼻閉マウスにおいて、障害から4週間後に(メチマゾール単独投与後、OMP陽性細胞数が非障害マウス嗅上皮のOMP陽性細胞数と同じレベルまで回復するには少なくとも4週間を要するため)、鼻閉側嗅球での匂い刺激に対する応答が開放側嗅球での応答と比較して有意に低下しているかどうか検討する。3)行動学的にメチマゾール障害+片鼻閉マウスでは、嗅覚機能が低下していることを証明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
組織標本を作り、免疫組織学的検討をするために多くの試薬、解析用ソフトが必要である。 行動実験用のHDDや解析用PCが必要である。さらに研究成果を公表し、最新知見を得るために、主要な学会で発表予定であり、そのための経費が必要である。また海外誌に投稿、掲載するための費用も必要である。
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