鼻噴霧用ステロイド薬を用いた花粉症の初期療法の効果と分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。花粉症における最も重要なケミカルメディエーターはヒスタミンであり、ヒスタミンH1受容体は症状発現に深く関与している。ヒスタミンH1受容体は単にヒスタミンのシグナルを細胞内に伝達するのみならず、受容体自身がシグナルの調節機構に関与している。我々はtoluene diisocyanate (TDI) を用いたアレルギー性鼻炎の動物モデルを用いて、鼻粘膜の肥満細胞からヒスタミンが遊離すると、鼻粘膜のヒスタミンH1受容体の遺伝子発現が増加し、ヒスタミン過敏性が亢進することを見いだしている。近年、国内外において、鼻噴霧用ステロイド薬が初期療法効果を示すことが報告されており、さらにTDIを用いたアレルギー性鼻炎の動物モデルでは、ステロイドの投与により、鼻アレルギー症状とともに鼻粘膜のH1受容体の遺伝子発現の亢進が抑制された。そこで、本研究では鼻噴霧用ステロイド薬の初期療法は、鼻粘膜におけるヒスタミンH1受容体遺伝子発現の亢進を抑制することにより、導入療法よりも花粉症に対して高い効果を示すという作業仮説をたて、我々が開発したヒトの鼻粘膜のヒスタミンH1受容体mRNAを低侵襲で繰り返し測定できるシステムを用いて検討した。その結果、鼻噴霧用ステロイド薬による初期療法を行った患者は無治療患者と比べ、鼻粘膜のヒスタミンH1受容体遺伝子発現が抑制され、くしゃみ、水様性鼻汁の症状も抑制されていた。また、初期療法、導入療法ともに鼻噴霧ステロイドにて、鼻粘膜のH1受容体遺伝子発現は経時的に抑制された。以上より、鼻噴霧用ステロイド薬の初期療法は、鼻粘膜におけるヒスタミンH1受容体遺伝子発現の亢進を抑制することにより、花粉症に対して高い効果を示していることが示唆された。
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