研究概要 |
中耳手術では、削開乳突腔などにおいて粘膜の温存が困難であることが多く、術後形成鼓膜の再陥凹、癒着および再形成性真珠腫などが問題となる。削開乳突腔の含気を維持し、ガス産生能などの生理機能を回復するために様々な工夫がなされているが未解決の部分も多い。自家細胞による中耳粘膜組織の組織再生が確立されれば、中耳手術後の問題点を抜本的に解決することが期待できる。これまでに中耳粘膜上皮細胞や鼻粘膜上皮細胞由来細胞シートを動物モデルに移植した報告があるが、我々は、細胞、足場、調節因子を同時に移植し、生体内で組織再生を図るin situ tissue engineeringの可能性に注目した。 合成マトリックスであるハイドロゲル(PuraMatrix, BD Bioscience, California, USA)は組織再生の生体内研究への応用が報告されている(Semino CE, et al. Differentiation. 71: 262-270, 2003)。中耳粘膜再生の足場としてハイドロゲルを用い、ラット中耳粘膜上皮培養細胞と配合して移植実験を行った。ドナー細胞にSD-TGラット(グリーンラット)を用い、EGFPを移植後解析のトレーサーとした。初代培養はexplant culture法で行い、培地はDMEM:BEGM=1:1用いた。レシピエントにSDラットを用い、中耳骨胞の粘膜を可及的に除去し、中耳粘膜障害モデルとした。ハイドロゲルにSD-TGラット由来の中耳粘膜培養細胞を加え、FK506による免疫抑制下に移植を行った。培養細胞は免疫組織学的に上皮系の細胞であることが確認でき、EGFPをトレーサーとしたレシピエントの解析では移植後7日目、14日目、28日目すべてにおいてEGFPを発現する細胞が移植部位に確認され、免疫組織学的な解析により、同細胞が上皮細胞の特徴を有していることが確認され、また、基底膜の形成、細胞間接着の形成が示唆され、本実験モデルにおいて中耳粘膜培養細胞の中耳粘膜障害部位への生着および組織再生傾向を示唆する結果が得られた。
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