本研究では、反回神経脱神経後部分的再生を認める甲状披裂筋モデル動物を作成し、このモデル動物を用い甲状披裂筋に神経筋弁移植術を行うことで、反回神経と頸神経ワナの二重神経支配がおこるかどうかを検討することを目的とし、まずモデル作成を行なった。ウィスター系ラットを用い、左反回神経を切断し完全に脱神経させた動物モデルを脱神経群とした。また、左反回神経を一旦切断後、断端間を1㎜離した状態でシリコンチューブ内に挿入したモデルをシリコンチューブ群とし、上記処置の5週後に甲状披裂筋に神経筋弁移植術を行ったものを神経筋弁移植群とした。神経筋弁移植群において、反回神経切断部の中枢側を電気刺激すると甲状披裂筋に誘発活動電位を認めた。一方移植した頸神経ワナを電気刺激すると同様に甲状披裂筋に誘発活動電位を認めた。このことから、部分的に反回神経支配の存在する甲状披裂筋においても、もともとの反回神経と移植した頸神経ワナからの二重神経支配の生じたことが明らかとなった。甲状披裂筋の筋全体および単一筋線維の断面積の定量的に検討では、神経筋弁移植群がシリコンチューブ群に比較して、より筋萎縮が抑制されたことが明らかだった。また、中心核を有する筋線維細胞数の割合も神経筋弁移植群がシリコンチューブ群と比較しても有意に多く、神経筋弁移植群の甲状披裂筋では再生過程にある筋線維の割合が有意に多いといえた。また、神経筋接合部(神経終末およびアセチルコリン受容体)の変化においては、神経筋弁移植群の神経終末数とアセチルコリン受容体数は、シリコンチューブ群よりも多かった。組織学的および電気生理学的な検証により、脱神経後、部分的に反回神経支配が存在する甲状披裂筋に対して、神経筋弁移植術を行うことによって、新たな神経支配の確立されることがラット喉頭を用いて確認された。
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