研究課題/領域番号 |
24791800
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
竹井 慎 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (40347589)
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キーワード | バイオフィルム / 抗菌薬感受性 |
研究概要 |
無莢膜型インフルエンザ菌は、急性中耳炎の主要な起炎菌の一つであるが、バイオフィルムを形成し急性中耳炎の難治化大きく関与している。従来のMICは分離された浮遊菌に対する抗菌活性を示すので、バイオフィルムを形成した細菌に対する抗菌活性は評価されていない。難治性中耳炎から分離されたNTHiに対する抗菌薬の有効性について、従来のMICに加え、バイオフィルムを形成した細菌に対する抗菌活性を示す新たなパラメータとして最小バイオフィルム抑制濃度(minimal biofilm eradication concentration: MBEC)を用い、検討を行った。 難治性中耳炎患児の中耳貯留液から得られたNTHi臨床分離株12株を用い、抗菌薬としてアモキシシリン、セフジトレン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、トスフロキサシン、レボフロキサシンを用いた。βラクタム薬ではMBECは非常に高値で、著明にMICと乖離しているのに対し、キノロン系薬ではMIC、MBECともに臨床で用いられる濃度よりも低値であった。マクロライド系薬ではMIC とMBECは近い濃度であった。また、アモキシシリンおよびレボフロキサシンにおいて、クリスタルバイオレット法、走査型電子顕微鏡による観察を行い、アモキシシリンはバイオフィルム形成が抑制されないのに対し、レボフロキサシンでは著明にバイオフィルム形成が抑制されることが示された。抗菌薬の種類により、バイオフィルム形成インフルエンザ菌に対する抗菌効果は著しく異なることが判明した。 また、in vitroでの実験では、形成したバイオフィルムに抗菌薬を投与すると、ある程度の抗菌薬濃度以上でバイオフィルムは破壊されるが、投与タイミングを遅らせてさらにバイオフィルムを成熟させ、そのあとに抗菌薬を投与した場合、抗菌薬濃度を高くしてもバイオフィルムは破壊できなかった。このようにバイオフィルムが成熟する前に抗菌薬治療を行う必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最小バイオフィルム抑制濃度(MBEC)の測定方法を確立し、臨床検体株を用いて無莢膜型インフルエンザ菌の各種抗菌薬のMBECを測定した。また、クリスタルバイオレット法を用いたバイオフィルムの定量的測定を行い、抗菌薬の効果を評価した。さらに走査型電子顕 微鏡で抗菌薬暴露後の無莢膜型インフルエンザ菌を観察して抗菌薬の効果を確認した。バイオフィルムに対する抗菌薬の投与タイミングについての検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、抗菌薬のPK/PD理論に基づいた、時間依存性、容量依存性の抗菌薬作用の検討を継続する。また、バイオフィルムを形成したインフルエンザ菌に対して、抗菌薬の多剤併用の有効について検討する。チェッカーボード法でホスホマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、レボフロキサシン、βラクタム薬などの抗菌薬の組合せによる、抗菌薬の抗バイオフィルム効果についての相加・相乗作用を検討する。特に、クラリスロマイシンと他系統の抗菌薬のコンビネーション治療について検討する。 中耳炎チンチラモデルおよびラット中耳炎モデルを応用し、インフルエンザ菌による実験的中耳炎モデルを作成する。チンチラに全身麻酔を行った後、中耳蜂巣に、無莢膜型インフルエンザ菌をツ接種し、72時間で実験的中耳炎を作成し、in vivoでの抗菌薬の抗バイオフィルム効果について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
インフルエンザ菌臨床分離株において、バイオフィルムを形成させ、バイオフィルム形成能を計測した。さらに多種抗菌薬のバイオフィルムに対する効果を容量依存性、時間依存性、投与タイミングなどの観点から評価を行う予定であったが、平成25年6月21日~平成25年10月1日までの科学研究費の使用を停止する通達があったため、当初の研究予定に遅延が生じた。 インフルエンザ菌バイオフィルムに対する抗菌薬作用を評価する。培地などの細菌培養備品、バイオフィルム検出試薬、PCR試薬、抗菌薬購入費用、電子顕微鏡関連費用に主に支出する。
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