研究課題
鼻腔粘膜を被う多列線毛円柱上皮における線毛運動の活動性は、ATPを介したpurinergicな伝達機構により調節される。pannexin-1がATP透過性を有しており、チャネル経由のATP放出に重要な役割を担っていることが知られているが、ヒト鼻腔粘膜におけるpannexin-1の発現の有無やATP放出機能を有するか否かは明らかではない。実験には肥厚性鼻炎患者(21名、平均 44.2歳)から内視鏡下鼻内手術により摘出した下鼻甲介粘膜を用いた。pannexin-1とP2X7の発現の有無を、蛍光免疫染色法とqRT-PCR法により調べた。また、下鼻甲介粘膜組織を10分間培養し、培養液中のATP濃度を、luciferin-luciferase assayにより測定した。蛍光免疫染色法およびqRT-PCR法により、鼻腔粘膜にpannexin-1およびP2X7が発現していることを明らかにした。ATP測定では、等浸透圧環境に比し低浸透圧環境で鼻腔粘膜組織からのATP放出は有意に増加した。この低浸透圧刺激によるATP放出の増加は、pannexin-1 blockerであるcarbenoxolone 10 μM存在下で有意に抑制された。一方、connexin blockerであるflufenamic acid 300 μM存在下およびstretch-activated channel blockerである gadolinium 100 μMを投与しても、ATP放出量に有意な変化は認められなかった。本研究は、鼻腔粘膜に発現するpannexin-1が機械的刺激などにより活性化され、ATPの細胞外への分泌を惹起し、近傍のP2X7受容体の活性化を介してさらにpannexin-1の活性化を誘導する自己分泌/傍分泌の一端を担い、鼻腔全体の線毛運動をダイナミックに調節している可能性を示した。
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