研究概要 |
まず、従来我々の施設でS-Dラットを使用して作成していた3-nitropropionic acid(3-NP)による急性内耳エネルギー不全モデルをCBA/CaJマウスを用いて作成した。方法はこれまでの報告と同様(Mizutari et al. J Neurosci Res, 2007, Hoya et al. Neuroreport, 2004)、全身麻酔下に耳後部切開をおき、中耳骨胞を露出。中耳骨胞にマイクロドリルで小開窓を行い手術顕微鏡下に正円窓窩を明視下に置く。500mMの3-NPを正円窓窩にマイクロポンプと微小チューブを用いて局所投与した。その結果マウスにおいてラットにおいて観察された3-NP投与後のABR閾値上昇が同様に認められた。さらに組織学的な検討を行ったところ、内耳局所的なミトコンドリア機能阻害により高度の聴性脳幹誘発反応(ABR)閾値上昇が認められ(Hoya et al. Neuroreport, 2004)、その原因が蝸牛外側壁線維細胞に特異的に生じるアポトーシスによるものであることを光学顕微鏡下に確認した。この3-NPモデルマウスを3-NP投与後2ヶ月まで経過観察すると、低音域から中音域までのABR閾値に有意な改善が認められた。組織学的には外側壁線維細胞、特にI型、IV型において細胞分裂を伴う自発的な再生が認められ、再生した線維細胞は能動的イオンリサイクリングの主体を担うNa+/K+/ATPaseβ-1を発現していることが明らかとなった。さらに、蝸牛内電位(endocochlear potential)を測定したところ、3-NP投与によって低下した電位が改善していることが明らかとなった。以上により、自発的な蝸牛外側壁線維細胞の再生は蝸牛内電位の回復により聴力の改善を来していることが明らかとなった。
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