研究概要 |
計3年間の研究計画の1年目である平成24年度は、主に頭頸部扁平上皮癌細胞株を用いたpilot studyにより、実験系の確立を目指した。5種(Ca9-22, Gun-1, HSC-2/-3/-4)の細胞株でautophagy(自己消化)の導入条件を確立し、autophagyをacridine orangeとLC3B-II染色により正確に検出できた。さらにzVAD-FMK, 7-AAD染色でもapoptosisは検出されず、以後の結果はapoptosisによるものではなくautophagyによるものと考えられる。Autophagyの誘導により一部の細胞株でHLA class I分子の発現が低下し、逆にHLA class IIの発現増加を認める細胞株も認められた。興味あることに、autophagy処理によってcancer stem cell markerが、全細胞株において著明に発現低下していた。さらには抑制性のcostimulatory factorも一部の細胞株で発現低下することも分かった。 頭頸部癌患者の腫瘍検体を用いた免疫染色についての研究に付き、以下の原著英語論文がin pressである。 Clinicopathological significance of L-type amino acid transporter 1 (LAT1) expression in patients with adenoid cystic carcinoma. Kaira K, Toyoda M, Shino M, Sakakura K, et.al. Pathol Oncol Res. 2013 Mar 21. [Epub ahead of print]
|
今後の研究の推進方策 |
細胞株を用いた研究はこのまま継続し、autophagy関連分子と抗原提示メカニズムとの関係を調べる。申請書通り、ターゲットなる分子(候補分子: Beclin-1, atg5, atg12, mTOR等)はtransfection/silencingによる強制発現/抑制実験を行う。 頭頸部扁平上皮癌(当科)と膵臓癌(病態総合外科学)を中心とした種々の悪性腫瘍のホルマリン固定パラフィン包埋サンプルに対し、autophagy関連分子に非常にspecificityの高い抗体を用いて免疫染色を行い、HLA分子やAPM、costimulatory factorや血管新生、局所のサイトカイン産生との関係を調べ、さらに臨床パラメータとの比較を行う。多忙な臨床業務の合間に行われる研究であるが、平成24年度にInvitrogen社のiBlotや泳動システム、Bio-Rad社のready-to-useのbuffer群を購入し、高速にSDS-PAGE/western blottingが行えるシステムを構築した。それによって、免疫染色だけでなくWBによっても蛋白を同定する。特にAPM関連蛋白やHLA分子の同定に用いる抗体は、Harvard大学S. Ferrone外科教授の開発したオリジナルの特異抗体のシリーズで、世界でも当科を含めた数か所の研究室にしかないもので、非常にオリジナリティーが高い結果が期待できる。 最終的には癌細胞の抗原提示の増強に最も深くかかわるautophagy関連分子を同定し、研究3年目の平成26年度には、p53を仮想抗原としたin vitro stimulationを行い、ex vivoでの抗原提示効率を求める。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究2年目である平成25年度は、申請段階では\1,685,000-の予算を請求しており、この額にちかい予算額を執行することとなる見込みである。備品の購入は本年度は予定していないので、以下の如く培養試薬や抗体などの消耗品の購入が主となる予定である。 培養用培地/血清/試薬: \314,000-(請求額と不変), サイトカイン(IFN-γ61543;等): \144,000-(請求額より\42,000-増額:多くのリンパ球・樹状細胞が必要となるため), 培養用フラスコ・ピペット: \143,000-(請求額と不変), サンプルチューブ・チップ: \121,000-(請求額と不変), 一次抗体(autophagy関連): \151,000-(請求額より\39,000-増額:想定より多くの症例で免疫染色が可能となるため), 二次抗体(FCM・免疫染色): \51,000-(請求額より\39,000-減額:現段階で十分にあるため), ELISPOTプレート・キット: \208,000-(請求額より\61,000-減額:一部3年目に使用を持ち越すため), 抗原ペプチド委託合成: \215,000-(請求額より\19,000-増額:症例増加を見込み), 免染/WB用品/器具/ゲル: \91,000-(請求額より\19,000-増額:症例増加を見込み), ソーティングビーズ: \167,000-(請求額と不変)となっている。 全体的にみると、当初の申請額に対し\21,000-増加の、\1,606,000-を本年度の予算として計上する見込みである。病態総合外科学の協力もあり、臨床検体数が事前の予測より若干増えることにより、若干の予算配分や総額の変化が生じるためである。
|