研究実績の概要 |
研究実施計画に則り、ヒト内因性ぶどう膜炎モデルである実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)を惹起し、VAP-1 阻害薬を投与した。 しかし、ぶどう膜網膜炎の重症度が非投与群でも安定しなかった。調査の結果、以前安定的に用いていた生産者による B10.BR マウスの生産が中止されており、他の生産者による別の系統が販売されていた。 そこで改めてマウスを C57/BL6に変更して同様の実験を行い、ぶどう膜網膜炎は安定的に惹起されるようになった。VAP-1 阻害薬投 与により、21日目(炎症極期)の組織学的重症度、臨床的重症度はともに軽症化する回としない回がみられた。臨床的重症度の途中経過をみると、10日目で薬剤投与群が 0.7、非投与群が 3.1、14日目で薬剤投与群が 1.3、非投与群が 3.1 といずれも薬剤投与群で 有意に軽症化していた(P<0.01, P<0.05)。 VAP-1阻害薬は最高重症度には影響しないが発症速度を遅くする可能性もあり、再現性の確認を進めるとともに培養細胞での効果を検討した。 培養液中の血管内皮細胞を TNF-alpha で刺激した場合、可溶性VAP-1濃度は培養上清中で増加したが、mRNA は増加しなかった。一方、血管内皮細胞を IL-1beta で刺激した場合にも可溶性 VAP-1 培養上清中で増加したが mRNA は増加しなかった。 これらの結果、および健常動物の網膜および脈絡膜に VAP-1 が発現していることも Western blotting と PCR で確認できたことから、VAP-1 は網膜およびぶどう膜に存在しており、かつエンドトキシン等の非特異的全身炎症では誘導され、阻害薬は一定の炎症軽減効果を示す。しかし、TNF-alpha や IL-1beta などの炎症性サイトカインは血管内皮細胞からの VAP-1 を直接誘導しない。そのため抗原特異的ぶどう膜網膜炎モデルである EAU では、最高重症度を軽症化するには至らないという機序が考えられた。
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