研究課題
網膜色素変性や加齢黄斑変性などの網膜変性疾患で共通して認めるのが、杆体視細胞の変性である。杆体視細胞の変性に伴う病態を詳しく解析するために、さまざまなモデルマウスが作られて来たが、成体網膜で任意のタイミングで杆体視細胞の変性を誘導できるモデルは限られていた。本研究では遺伝子改変マウスを用いて、誘導型の杆体視細胞変性モデルを作成した。杆体視細胞特異的に誘導型Cre組換え酵素を発現する遺伝子組換えマウスを用いて、タモキシフェン投与依存的に杆体視細胞でジフテリア毒素の発現を誘導した。その結果、投与1ヶ月後には杆体視細胞の約半分が消失し、網膜電図でも杆体視細胞の変性に一致する所見が得られた。マウスの健康状態は著変ないことから、ジフテリア毒素の発現漏れの影響は少ないと考えられ、杆体視細胞特異的に変性を誘導できることが示された。視細胞変性のさまざまなモデルマウスで共通して認めるのが、グリア細胞の活性化である。視細胞の変性により、ミュラーグリア細胞のリアクティブな変化と、ミクログリアのアメーバ状の形態変化、および網膜下腔への侵入が起こることが分かっているが、どのようなメカニズムでグリア細胞の活性化が誘導されるのかは良く分かっていない。私たちが作製したモデルマウスでも、タモキシフェン投与1週間後に、同様のグリア細胞の活性化を認めた。タモキシフェン投与直後には組織学的な変化を認めないが、RNA-seqによる網羅的な遺伝子発現解析から、遺伝子発現レベルではすでに変化が始まっていることが分かった。これらの遺伝子の中に、グリア細胞活性化のスイッチを入れるような分子が含まれていると考えられるため、その役割の解明が今後の課題である。以上から、本研究で作成した新規モデルマウスは、杆体視細胞変性による網膜グリア細胞の応答を解析する上で、有用なツールになると考えられた。
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PLoS One
巻: 8 ページ: e73532
10.1371/journal.pone.0073532
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/moldev/