研究課題/領域番号 |
24791849
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 智昭 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50549095)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 糖尿病黄斑浮腫 / 画像解析 / 自己組織化マップ / パターン認識 / 臨床診断 |
研究概要 |
糖尿病黄斑浮腫による視力障害は多くの患者さんに重篤な視力障害をきたす重要な疾患であるが、その多面性、および、複雑性のために、解析が十分には進んでいない。我々は、近年進歩に著しい画像診断技術から、重要なパラメータを数多く抽出し、多変量をパターン認識する能力に優れる自己組織化マップを用いた解析に取り組んだ。 特に、光干渉断層計(OCT)を用いた網膜厚、嚢胞様腔、漿液性網膜剥離、視細胞障害を定量化し、その臨床的有用性を証明した。特に、嚢胞様腔と黄斑部視細胞障害の関係について、内顆粒層から外網状層に至る重篤な嚢胞様腔に視細胞障害を伴いやすいことを新たに発見し、海外雑誌に報告した(Murakami et al. IOVS 2012)。また、hyperreflective fociもまた、黄斑部視細胞障害と強く関与することも報告した(Uji A, et al. AJO 2012)。更には、嚢胞様腔のOCT反射強度が、蛍光眼底造影における蛍光貯留と負の関係にあり、糖尿病黄斑浮腫における血液網膜柵の破綻に複数のメカニズムが存在し、それをOCTをつかってモニタリング可能であることも報告した(Horii T, et al. Ophthalmology 2012)。 網膜厚を使った糖尿病黄斑浮腫の治療後の経過観察は以前よりなされていたが、視力との解離が問題であった。我々は、硝子体手術後の網膜厚を内層、外層に分けて検討することで、その解離を説明し、また、より質の高い予後因子の抽出にも成功し、海外雑誌に掲載した(Murakami T, et al IOVS 2012)。 これらのパラメータを使い、我々は自己組織化マップを用いて、糖尿病黄斑浮腫には、4つのパターンがあることを客観的に導き出しており、今後、その診断精度を高めることが可能か、検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の到達目標は、自己組織化マップの精度を高めるために、糖尿病黄斑浮腫の臨床所見において、可能な限り多くの有用なパラメータを抽出することであった。われわれは、黄斑部網膜厚を内層、外層に分けて計測する世界で初めての試みを行い、その臨床的有用性を証明した(Murakami T, et al. IOVS 2012)。また、傍中心窩領域の各象限における網膜厚のうち、特に、鼻側網膜厚が硝子体手術後の予後予測に重要であることも世界に先駆けて報告した(同論文)。また、黄斑部視細胞障害に関しても、外境界膜障害および視神経内節外節接合部(IS/OS)の障害を定量化する新たな方法論を導入し、その臨床的意義を報告している(Murakami T, et al. IOVS 2012)。これらの論文は、OCT画像から得られる情報の内、視力との関連の強い重要なパラメータを抽出することに成功したと考えられ、今後予定している、自己組織化マップを用いた多変量データの解析の下地となる研究であり、当初の目標を十分に達成できたと考える。 また、嚢胞様腔のOCT反射強度の定量は、当初の予定通りに進捗したのみならず、その蛍光眼底造影所見との関連を世界に先駆けて発見したことは、予定以上の成果といえる。また、hyperreflective fociが黄斑部視細胞障害の評価の新たなパラメータとして方向したが(Uji A, et al. AJO 2012)、その病態解明に非常に重要な発見であると同時に、定性的な評価であり、客観的データとして扱いにくく、現在、その定量化を行っており、近日中に学会、学術誌で報告予定にしており、当初の目標以上の収穫が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度、我々は主に光干渉断層計(OCT)から得られる有用なパラメータを抽出してきたが、定性的評価にとどまっているものを定量化し、客観性を得るとともに、今後の情報解析に適した形へと進化させる予定である。特に、hyperreflective fociは、すでにその定量化に着手しており、今後明確なデータを提供できるであろう。また、蛍光眼底造影における蛍光漏出の程度も定量化する方法論を世界に先駆けて開発する予定であり、これらを組み合わせることで、糖尿病黄斑浮腫の理解がさらに進むものと考えられる。 今後は、これらのパラメータを、実際に自己組織化マップを使って、解析していく予定である。実験的にすでにあるパラメータを使って解析してみたところ、糖尿病黄斑浮腫の病態は、形態学的な観点からは4つのパターンに分類されることがわかっている(自験データ)。今後、パラメータを増やしながら、さらに高精度のパターン認識および、新規の客観的な疾患概念や診断技術が提供可能か、他のアルゴリズムとも比較しながら、検討する予定である。 それのみならず、近年、その臨床的意義が注目されている黄斑部視細胞障害に関しても、同様に自己組織化マップで解析することで、その複雑なメカニズムを解明可能か、検討する予定にしている。もともと、糖尿病黄斑浮腫は、黄斑部網膜の肥厚と定義されるが、診断と臨床的意義(=視力との関連)に解離がある。黄斑部視細胞障害は、より視力との関連が強いパラメータとして、注目されている。その病態はほとんど理解されていないが、自己組織化マップを用いたパターン認識により、臨床的な観点から、その病態の推定を行うことが可能か、試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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