H25年度は①メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の眼部由来株の解析②MRSAをふくむ黄色ブドウ球菌の病原因子・ワクチン候補の探索③病原因子抑制薬のスクリーニングを行った。 ①②に関しては眼部由来のMRSAとして最も多く検出された遺伝子型ST764を解析した。院内感染型MRSAには、psm-αなどの毒素を抑制する遺伝子群(psm-mec)が存在することが、明らかになっているが、ST764の解析を行ったところ、psm-mecの遺伝子に変異を認めることで、毒素産生が抑制されておらず、病原性が高いことを示した。また、psm-αが角膜炎に対してどのような役割を担っているかを明らかにするために、黄色ブドウ球菌(野生株)とpsm-α欠失株を用いて、培養角膜上皮への影響を調べたところ、野生株に比較してpsm-α欠失株は細胞への毒性は減弱していることが確認できた。すなわち、眼部由来のMRSAはpsm-mecが変異することで角膜に障害を与えるpsm-αを産生していることを意味している。一方、psm-αに対する宿主側の免疫反応などは確認できておらずpsm-αに対する抗体などが、感染症成立を抑制できるか、また、将来的にワクチンとして使用できるか、現在検討中である。 ③に関してはH24年度に明らかになった黄色ブドウ球菌の接着や侵入の病原因子であるwall teichoic acids(WTA)の阻害剤をスクリーニングした。過去に我々は、アゾ染料であるCongo redはWTA欠失株にのみ殺菌的に働くことを報告している。その原理を利用して、放線菌から抽出された蛋白ライブラリーの中で、Congo redと併用した時にのみ黄色ブドウ球菌を殺菌できる物質をスクリーニングすることでWTA阻害剤を探索した。その結果、いくつかの候補が見つかり、現在WTA阻害の臨床応用が可能か動物モデルを使用した効果の検討を予定している。
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