研究概要 |
中枢または末梢での三叉神経障害に起因する神経麻痺性角膜症は、難治で角膜上皮の創傷治癒が遅延するため、重篤な視力障害の原因となる。TRPV1は感覚神経終末などに発現しているイオンチャンネルの一つであるが、TRPV1のシグナルが,サブスタンスPや他の神経終末からの液性因子の発現に重要な役割を担っている事が、他臓器での実験研究から明らかにされている。TRPV1は野生種で角膜上皮下に確認することができた。今回、角膜上皮欠損モデルを作成しTRPV1ノックアウトマウス(KO)と野生型とで角膜上皮の創傷治癒を比較検討した。KOで12,18,24,30時間後に有意に治癒の遅延がみら、24時間後で有意に細胞の増殖抑制が確認された。また、KOでは免疫染色においてサブスタンスPとインターロイキン6の発現抑制が確認され、real-time RT-PCRで12時間後にサブスタンスPとインターロイキン6が有意に抑制されていた。また、角膜上皮欠損モデルを作成後、眼球摘出し、TRPV1のアゴニストとアンタゴニストを添加し36時間器官培養した。アゴニスト添加群の18時間後有意に促進されており、アンタゴニスト添加群で24時間後に有意に抑制されていた。これらよりTRPV1は角膜上皮の創傷治癒に大きく貢献していることが考えられた。TRPV1をはじめその他の痛みに関与するTRPチャンネルシグナルを調節することで難治性の角膜上皮疾患の治療につながることが期待できる。また、角膜上皮や実質の創傷治癒における炎症反応時にテネイシンCや一酸化窒素合成酵素タイプII(NOS2)が深く関与しているといわれているため、別実験として予備的実験で角膜全層切開モデルを作成し、野生種とノックアウトマウスで比較したところ治癒の遅延を確認した。
|