角膜は透明な組織であり視機能維持に非常に重要な組織であるが、外傷や炎症により配列が乱れると混濁をきたし透明性を失う。角膜の透明性を維持するには血管新生の抑制や線維瘢痕化の抑制も重要であるが、まずは感染予防も含め上皮の治癒が必要となる。中枢または末梢での三叉神経障害に起因する神経麻痺性角膜症は、難治で角膜上皮の創傷治癒が遅延するため、重篤な視力障害の原因となる。transient receptor potential1(TRPV1)は感覚神経終末などに発現しているイオンチャンネルの一つであるが、TRPV1シグナルが、サブスタンスPや他の神経終末からの液性因子の発現に重要な役割を担っていることが、多臓器での実験で明らかにされている。以前に、当教室ではTRPV1ノックアウトマウスではアルカリ外傷後の線維瘢痕化が抑制されることを報告しているが、今回の研究では角膜上皮の創傷治癒においてはTRPV1はとても重要であった。TRPV1ノックアウトマウスでは上皮の治癒は抑制されており、遊走だけでなく細胞増殖も抑制されていることが判明し、real time RT-PCRではRNAレベルでサブスタンスPやIL6の発現量が低下していることが判明した。またラット角膜上皮の器官培養ではTRPV1のアゴニストを添加することで上皮の治癒が促進され、アンタゴニストの添加で上皮の治癒が抑制された。これらの結果から、角膜では炎症の程度や創傷の深さによって、TRPV1をうまく制御することで難治性角膜疾患でも透明性維持を保てる可能性があることが示唆された。
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