研究課題/領域番号 |
24791873
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
渡邊 交世 杏林大学, 医学部, 助教 (90458901)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ぶどう膜炎 |
研究概要 |
近年、18-25塩基からなるmicroRNAが標的mRNAの発現を制御することで発生・分化などの生命現象の制御に関与していることが報告されている。また免疫制御に関わるmicroRNAの研究が進み、自然免疫の制御やリンパ球の分化・成熟にも中心的な役割を果たすmicroRNAもいくつか同定されるようになった。最近では難治性ぶどう膜炎の動物モデルである実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)のマウス眼局所において特定のmicroRNAの発現が上昇、低下することが示された (Ishida et al. IOVS 2011)。本研究課題ではルイスラットにEAUを誘導し、眼局所のmicroRNAの発現について経時的に検討を行った。IRBPペプチド(R14)で免疫しEAUを誘導、免疫直前、および免疫後7、14、21日目に眼球を摘出、網膜を採取しtotal RNAを抽出後にmiRCURY LNATM microRNA Arrayを用いてmicroRNAの発現について網羅的な発現解析を行った。その結果、EAUの前眼部炎症は免疫後7日目にはみられなかったものの14日目にピークを示し、21日目には軽減した。免疫直前と比較してmicroRNAの発現が上昇(2倍以上)した遺伝子数は免後7、14、21日目でそれぞれ0個、10個、9個、低下(1/2以下)した遺伝子数は0個、4個、0個であった。免疫後14日目ではmiR-223、miR-142-5p、miR-21、miR-146aなどのmicroRNAの発現上昇がみられた。免疫後21日目においてもこれらのmicroRNAの発現上昇が持続していた。今回の結果からEAUを発症したラット網膜の炎症極期、消退期において免疫前に比較して特定のmicroRNAの発現上昇、低下が観察された。これらのmicroRNAがEAUの病態形成に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画では難治性ぶどう膜網膜炎の動物モデルである実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)を用いて1)網膜を主体とした眼局所におけるmicroRNAの発現の確認、2)EAUの各病期(発症前期、炎症極期、炎症消退期)において特異的に発現の上昇、低下しているmicroRNAをマイクロアレイにて同定、3)発現上昇のみられたmicroRNAについて眼組織内の局在を検討するために免疫組織染色法を用いた発現部位の同定、の3項目について検討を予定した。 1)、2)についてはルイスラットを用いてEAUを誘導し、免疫後7日目(EAU発症前)、14日目(EAU炎症極期)、21日目(EAU消退期)に眼球を摘出、網膜を採取してmicroRNAの発現についてマイクロアレイの手法を用いて検討したところ、免疫後14日目においてmiR-223、miR-142-5p、miR-21、miR-146aなどのmicroRNAの発現上昇がみられ、さらに免疫後21日目においてmiR-146、miR-142-5p、miR-21の発現上昇が持続していた。現時点ではこれらのmicroRNAが眼局所においてEAUの病態形成に直接関与していることを示す実験結果は得ていないが、最近の報告ではmiR-146は代表的な自然免疫系の情報伝達経路であるToll-like receptors (TLRs)-Nuclear factor-κB(NF-κB)を抑制的に制御する、いわばnegative feedback機構の働きをもつものと考えられており、実際にEAUの消退期においてmiR-146の発現が上昇していることを考慮するとmiR-146がEAUの病態に関与する可能性が考えられる。3)については現在検討中であり、平成25年度中には結果を得る予定である。以上の結果から当初の予定した到達度にほぼ達していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ、マイクロアレイの手法を用いてEAUの各病期において特定のmicroRNAが発現していることが確認できた。これらの知見を踏まえ、平成25年度ではmicroRNAとEAUとの関連についてさらに検討するために下記の5項目について解析予定である。 1)マイクロアレイで発現のみられたmicroRNAについて定量PCRを用いて発現量を確認する、2)マイクロアレイで発現のみられたmicroRNAの発現部位を同定するため免疫組織染色法を用いて検討する、特に発現量の上昇が著明にみられたmiR-223、miR-146aについて発現部位を検討する。3)近年、一部のmicroRNAが自然免疫系の情報伝達経路に関与することが報告されていることから、EAUの各病期の眼局所における炎症性サイトカイン、特にTNF-aやIL-1の発現について前房水を用いてELISA法にて発現を検討する。4) 網膜における炎症性サイトカインの発現を検討するため網膜組織における炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、IL-17、TNF-α、IFN-γ)ついて病期別に定量PCR法を用いて発現の変動を検討し、各種microRNAとの発現の相関について検討を加える。5) microRNAを制御することでEAUの抑制効果が得られるか検討するためにEAUの各病期で発現の上昇・低下がみられたmicroRNAの中から炎症促進に作用するmicroRNA、または炎症抑制に作用するmicroRNAを選択し、それらを制御することでEAUの重症度に変化がみられるか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)microRNAの局在の確認: miR-223とmir-146aについて眼組織のどの部位に局在しているのか確認するためIn Situ Hybridizationの手法を用いて発現部位を確認する。プローブはExiqon社に作成依頼(Locked nucleic acid-modified oligonucleotide probe)したものを用いる。網膜内に浸潤した炎症細胞にmicroRNAの発現がみられた場合は、各免疫担当細胞の表面分子(T細胞:CD3、 B細胞: CD20、 マクロファージ:CD68)も同時に染色し、microRNAの発現細胞の同定も行う。2)前房水、網膜における炎症性サイトカインの発現の検討: 前房水、網膜組織における炎症性サイトカインついて病期別に定量PCR法、ELISA法にて発現の変動を検討する。3)定量PCRによるmicroRNAの発現の確認:平成24年度の解析において発現の上昇、低下のみられたmicroRNAについて定量PCR法(TaqMan MicroRNA Assay)を用いて発現の確認を行う。4)EAU抑制効果の検討:miRNA-146aは代表的な自然免疫系の情報伝達経路であるTLRs-NF-κBを抑制的に制御するmicroRNAとして注目されていることから、EAU発症初期の時点でmiRNA-146aを硝子体内に投与することでEAUの抑制効果の有無を検討する。方法としてmicroRNA-146aに対応した2本鎖RNAを合成し、アテロコラーゲンと混合する。免疫後10-12日目にEAUを誘導したラットの硝子体内に1-10 ugの容量で注入し、細隙灯顕微鏡を用いて前眼部の炎症所見をスコア化、免疫後21日目に屠殺して眼球を摘出、病理標本を作成し、炎症の抑制効果を病理組織学的に検討する。
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