研究課題
若手研究(B)
長時間のVDT作業に伴う非シェーグレン症候群タイプのドライアイ(VDT群)を対象とし、シェーグレン症候群タイプのドライアイ群(SS群)と正常コントロール群と病理組織学的に比較検討し、涙腺上皮の分泌顆粒(secretory vesicles : SV)の観点から、その発症メカニズムを考察した。その結果、VDT群の病理組織像では涙腺腺房が腫脹し導管が狭窄していた。電子顕微鏡による超微形態の観察では腺房上皮細胞質に過剰なSVが蓄積していた。続いて、成熟したSVに認められるRab3Dの免疫染色では、VDT群の涙腺腺房上皮細胞質に強い発現を認めたことから、VDT群では過剰なSVが細胞質に蓄積していることが示された。また、涙液外分泌を調節する分子であるVAMP8の免疫染色においては、正常群とその発現の分布が異なっていた。以上のことからVDT群では涙液分泌障害が起きている可能性が示された。つまりVDT群のうち重症例は涙液分泌障害で起こるという新たな発症機序の一端を解明した。ドライアイには涙液分泌減少型と蒸発亢進型があるが、今まではVDT群は瞬目が低下することで涙液蒸発量が亢進して発症すると考えられてきた。しかし本研究で、VDT作業により瞬目が低下することで涙液の産生は行われているが、分泌が障害されるという新たなメカニズムの関与が考えられた。この結果を論文にまとめPLoS ONEに投稿し採択された。今後はますます視覚情報化が進むと考えられ、VDT作業者数はさらに増加していくであろう。VDTドライアイの病態解明は急務であると考えられる。本研究が涙液分泌障害という新たなドライアイ発症メカニズムの一端を解明した点では有意義であると思われる。
2: おおむね順調に進展している
VDT群、SS群、正常コントロール群における涙腺の病理組織学的解析により、VDT群では涙腺の腺房上皮細胞質に多量のSVが蓄積していることが判明した。そして涙液外分泌をコントロールする分子であるVAMP8の免疫染色において、VDT群では発現の分布が正常コントロール群と異なっていた。このことから、VDT群では涙液分泌障害が起きている可能性が示された。VDT群は従来では瞬目低下により涙液蒸発量が亢進して発症すると考えられていたが、病理組織学的な解析結果より涙液分泌障害という新しい発症メカニズムが関与している可能性を示すことができた点で、上記のように判断した。
今までの研究でVDT群では瞬目低下により涙液分泌障害が起こり、涙腺腺房上皮細胞質にSVの過剰な蓄積が惹起される可能性が示された。今後はSVの蓄積を引き起こすさらに上流の原因を探っていきたい。着眼点としては、VDT作業による瞬目低下という刺激の減少が涙液分泌に与える影響(自律神経との関連)、長時間VDT作業によるストレスの影響、涙腺腺房上皮細胞における細胞内輸送に関する分子の影響、などが挙げられる。これらに影響を与えると考えられる分子を、免疫染色により調査することを検討している。
昨年秋に私が出産したため、平成24年度の研究費に未使用額が生じたが、平成25年度の物品購入に充てる予定である。平成25年度の研究計画としては、VDT作業に伴う瞬目低下により、涙液分泌を引き起こす刺激が減少することから、副交感神経の状態を調査したい。アセチルコリンエステラーゼの免疫染色を行い、各群における神経分布に差があるか否か調査することを検討中である。
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PLoS ONE
巻: 7 ページ: 1-8
10.1371/journal.pone.0043688