研究課題/領域番号 |
24791888
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
上田 祐華 広島大学, 病院, 医科診療医 (70624641)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 癌 / 遺伝子 / シグナル伝達 / マイクロアレイ / トランスレーショナルリサーチ |
研究概要 |
1999年以降にJPLT-2で治療され、核酸が保存され中央病理診断にて肝芽腫と診断され106例と、肝芽腫細胞株HepG2JPHB-1,2,3を用いて、以下の検討を行った。 β-カテニン(CTNNB1)異常:本症で高頻度に見られるβ-カテニン異常を検討した。エクソン3を含む領域の欠失は54例に検出し、欠失の検出できない例のうち23例でエクソン3の活性化変異を認めた。腫瘍のテロメラーゼ活性を定量TRAP(telomeric repeat amplification protocol)法、TERTのRT-PCR法にて検討した結果、正常肝臓よりも高活性であった症例は106例中43例で、細胞株は全例高活性であった。腫瘍組織を用いてWntシグナル下流遺伝子であるMYC, MDR-1, CyclinD1, Survivin, MMP7, Axin2などの発現をRT-PCRおよび免疫組織染色で検討した結果、TERTが活性化した腫瘍で有意にこれらの蛋白発現の多かった。 これらの106症例を 病理分類、臨床的な病期分類とその付加因子、各症例の臨床経過から3群のリスクに分類した。これらを、β-カテニン異常と、TERT発現とWntシグナル下流遺伝子発現から分類すると、TERT発現と下流遺伝子発現がリスクと相関した。マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子変異と遺伝子発現のデータから、1-3の結果と関連する遺伝子群を抽出したところ、MYC遺伝子とさらにSmall RNAが抽出された。現在、これらの遺伝子とそのネットワーク遺伝子の発現レベルの確認を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小児肝がんのうち、小児特有で最も多い肝芽腫について予定したWntシグナルとテロメラーゼの検討、さらにWntシグナル下流遺伝子の検討についてはほぼ予定通りに進んでいる。ただし、Small RNAが抽出され、これの意義と遺伝子パスウェイについて検討中で、当初予定した肝芽腫の発生、悪性度、進展様式に関与する遺伝子変化(発現変化)の組合せを数理学的に作成し、生物学的悪性度からみた肝芽腫のリスクアセスメントの評価システムを構築まではいたらなかった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に対象とした肝芽腫検体に加えて、小児肝細胞癌の症例20例についても追加して検討し、さらに、肝芽腫由来細胞株を用いた検討を継続して行う。 1.β-カテニン/Wntシグナル伝達系とテロメラーゼの解析:肝芽腫症例の解析を行うと共に、小児肝癌の中で予後不良とされる小児肝細胞癌についても検討を加える。 2.網羅的遺伝子解析:高リスクと判定された症例のデータから、肝内進展群と遠隔転移群を層別し、これらを規定している遺伝子変化、遺伝子発現を明らかにする。また、肝外進展(門脈進展、肝静脈進展、肝外浸潤)についても検討する。さらに、層別された群を対象に、抽出された分子標的について、臨床検体を用いてその発現レベルを検討し、標的に対する有用な治療薬(抗体あるいは阻害剤)候補を見出す。また、Small RNAなどのnon-cording RNA特にmicroRNAについても検討を加える。 3.セルテスティング:選別された分子標的に対し、そのsiRNAを肝芽腫細胞株(HepG2、並びにJHB1,2,3)に導入し、その効果を広島大学で開発して運用しているセロミクス(培養細胞の1細胞の網羅的な蛋白解析)と1細胞RT-PCRを用いて、その効果を判定する。また、パスウェイから候補として見出した治療薬をこれらの細胞に投与し、同様にその効果を判定し、臨床試験に用いるべき分子標的薬を抽出する。 上記の結果から、肝芽腫や小児肝細胞癌の発生や悪性度に関わる遺伝子やパスウェイを明らかにし、診断や悪性度の層別化(リスク分類)に有用なマーカーを見出す。さらに、これらの分子標的に対して有効な治療剤を抽出する。その治療剤の有効性について、セルテスティングを用いた検索システムを検証し、個々の症例にあった治療法を提供できるテストシステムとして、肝芽腫のオーダーメイド療法に有用なツールを提供する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は、すでに解析済みのアレイデータを用いたが、2013年度は,non-cording RNAの中で新たにmicroRNAに注目し、この解析用のアレイを購入して使用する。さらに、詳細な発現解析を行うために、次世代シークセンサーを用いたRNA発現解析を行い、2012年度のデータの確証を得たのちに、分子標的薬候補を抽出することを予定しており、これらのための試薬を購入する。さらに、セルテスティングシステムとして細胞培養やセロミクスに用いる細胞培養試薬や質量分析解析用試薬に研究費を用いる。 さらに、最終年度であるため、資料収集費用、論文校正、さらに報告書などの印刷費用などにも研究費を使用する予定である
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